第63話:友達でしょ?

「……それで、そういう話をしたってことは、海辺で遊べそうな魔道具が欲しいってことでいいのかな?」


 ひとしきりアンジェをイジって満足したのか、ルシールがアンジェを膝の上に乗せた状態で話を戻す。とっくの昔に抵抗を諦めてただただ耐えていたアンジェは、火照りを冷まそうと自身の顔をパタパタと扇ぎながら首を振った。


「えっと、それもなんですけど……もしよかったら、ルシールちゃんもご一緒にどうですか?」


「……私?」


 ルシールが自分を指差して目を丸くする。が、次の瞬間にはまたしても悪戯っぽい笑みを浮かべて。


「なるほどー、アンジェちゃんは私の水着姿も見たいんだー?」


「違いますよ!? 別にルシールちゃん私と体形変わらないしわざわざ見たいと思わないです!」


「ぐはっ……!」


 アンジェの容赦のない反撃がクリーンヒットしたのか、背後でルシールがくぐもった声を上げる。少しばかり意趣返しができた、と散々からかわれた鬱憤を晴らしつつ、アンジェは真面目に続ける。


「セリーヌ様が、もし呼びたい人がいたら呼んでもいいよって言ってくださったんです。それで、ルシールちゃんには仲良くしてもらってますし、何かお礼がしたくって」


 アンジェからすれば、ルシールはこの国に来てから初めてできた友人だ。先のやり取りからもうかがえるように、この二か月ちょっとの間でだいぶ気安く話せるくらいには仲を深めている。……それは、ひとえにルシールの明るさと人当たりの良さあってのものだと、アンジェは思っていた。


 いろいろと忙しいだろうに、自分が訪れた時は付きっ切りで応対してくれる。王国や王都のこと、流行りのファッションや食べ物のことなどなどいろいろな話をしてくれて、毎回本当に楽しいひと時を過ごさせてくれる。そんなルシールに対して、アンジェはどうにもお返しができていないように感じられて仕方がないのだ。


 もちろん、日ごろから魔道具の試運転などでその厚意に報えるよう頑張ってはいる。毎度毎度何かものすごい表情で喜んでくれているから多少は役に立てているのだろうが、それでもまだ、どうにも不足しているように思えてしまうのだ。


 そんな、未だに他人からの厚意を受け取るのに不慣れなアンジェに対し、ルシールは不満げに応えた。


「そういう理由なら、私は遠慮しようかな」


「……へ?」


 思いがけない即答ぶりに驚いて振り向けば、ルシールの指先がこつん、とアンジェの額を小突いた。


「私はアンジェちゃんと仲良くしたいから仲良くしてるんだよ? お礼なんかいらないって」


 小突かれた額をさすりながらアンジェが茫然としていると、ルシールが穏やかに微笑んだ。


「だからね。お礼ってことなら遠慮するけど、アンジェちゃんが私と一緒のほうが楽しいっていうなら考えてあげる。だって私たち、友達でしょ?」


 ルシールの言葉は、アンジェの心を申し訳なさから解き放つには十分だった。


「……はい、友達のルシールちゃんと一緒ならもっと楽しくなると思います。だから、一緒に行きませんか?」


「おっけー! お父さんたちに相談してみるね!」


「……ありがとうございます、ルシールちゃん」


 任せて、と言わんばかりに親指を立てて見せるルシールに、アンジェは思わず抱き着いた。


「わわっと、急にどうしたのアンジェちゃん?」


 驚きに声を上げるルシールに、アンジェは照れ笑いで応じた。


「……えへへ、なんとなく嬉しくなっちゃって」


「っ……そっかそっか、アンジェちゃんったらそんなに私が一緒なの嬉しいんだねー」


 そんな言葉とともにルシールのほうからも腕が回されて、アンジェの体がぐっと引き寄せられる。つい先ほどまでわちゃわちゃとはしゃぎあっていた余韻からか少し高めの体温が、アンジェの体と心をゆっくりと温めてくれる。


 ……抱き寄せられたことでアンジェの位置からはうかがえなくなったルシールの頬がほんのりと染まっていることに気づかないまま、アンジェはしばしその安らぎに身をゆだねた。


「よーし、そうと決まればみんなに楽しんでもらえる魔道具作らなきゃね! はい、アンジェちゃん降りて降りてー」


 ルシールにぽんぽんと背中を叩かれて、アンジェははっとして体を起こす。そのぬくもりが心地よくて、つい長居してしまっただろうか。


「ご、ごめんなさい、お邪魔でしたよね」


「あはは、全然邪魔なんかじゃないよー」


 慌てた様子でぴょんとルシールの膝から飛び降りたアンジェに苦笑しつつ、ルシールが立ち上がって作業台のほうへと戻る。そして、至極楽しそうな笑みを浮かべたかと思えば。


「さーて、それじゃあ楽しい楽しい魔道具作りの時間だよ! うぇへへ、今日はどんなの作ってぶっ壊してもらおっかなー♪」


「……」


 この顔を見るたび、本当に彼女と友達で良いのか考えてしまうアンジェであった。


===


 とアンジェが着々とお出かけ準備を進めている中申し訳ないのですが、ちょっともろもろありまして次回日曜日の更新はお休みになるかもしれません……。

 しばしお待ちいただければ……!

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