第47話:適性測定

「ご、ごめんなさいちょっと取り乱しました! ちょっとこれ片付けてくるので、そこのベンチで待っててください! 水晶のことは気にしないでいいからね、アンジェちゃん!」


 あまりの事態に半ばトリップしていたルシールがしばらくの後に我に返ると、融解してひしゃげた水晶を持って店の裏へと消えていった。


 それをきっかけにようやくアンジェとシャルロットも落ち着きを取り戻し、店内に設けられた木製のベンチに並んで腰かける。


「ほ、本当に気にしないでいいんでしょうか……?」


 言われた通りにやっただけとはいえ、水晶を壊してしまったことは事実。だがアンジェが若干青ざめつつそう零す一方、シャルロットはさして気にした様子はなく。


「まぁ、あの子が言うのなら大丈夫でしょう。それに、魔道具が魔力を過剰に込められたりして破損することはそう珍しくありませんわ」


「……だったらなんであんな風に言ったんです?」


 大慌てするアンジェに対して、シャルロットは舞台女優顔負けの泣きの演技を披露していた。あれがアンジェの焦りを助長した一員にもなったのだが。


「一度やってみたかったのですわ!」


「……もう、なんですかそれ」


 全く悪びれることもなくのたまうシャルロットを非難めいた眼差しで見つつ、アンジェは深いため息をついた。


 そんな視線に内心興奮しているシャルロットは、しかしそんな煩悩を感じさせない真面目な調子で続ける。


「まぁ、冗談は置いておきまして……あの事象に驚いたのは事実ですわ。水晶が破裂したり破損したりするのはわたくしも見たことがありますが、溶け落ちるなんて初めて見ましたもの」


「や、やっぱり私、無意識に何かしちゃってたんでしょうか……?」


 不安げに肩を落とすアンジェに、シャルロットは明るい調子で返す。


「わたくしも魔道具の専門家ではないので断言はできませんが、先のルシールの様子を見るに問題ないと思いますわ。あの子、魔法の素質がある方を見つけるとよくああなるのですわよねぇ……それにしてもものすごいキマリっぷりでしたが」


 アンジェ自身も大きく取り乱していたためにやや記憶に薄いが、溶けた水晶玉を見たルシールが何やら恍惚とした表情をしていたのはなんとなく覚えている。それはまるで、どこかの第一王女が初めて自分を抱きしめてきたときの表情にも、どこか似ていたような――。


「お待たせしました!」


 アンジェがどこか嫌な予感に背筋を震わせた直後、快活な声とともにルシールが戻ってきた。その手には何やら小箱が握られている。


「魔力量はいったんオッケーです! 次は魔法の適性ですね!」


 そういってルシールが開いた小箱の中には、長方形の紙が何枚も重なって入っていた。


 ルシールが一番上の一枚をつまみ上げると、数秒後にその紙がひとりでに湿りはじめ、やがてポタリ、ぽたりと水滴を滴らせた。


「こんな風に、この紙はその人の中で一番適性が高い属性に応じた変化が起こるようになってるの。シャル様は風でしたよね?」


「えぇ、そうですわね」


 答えながらシャルロットが同じように紙をつまみ上げると、その紙は数秒後にそよ風にあたったかのようにひらひらと揺れ、直後に細切れになって紙吹雪のように舞い散った。


「おぉ、やっぱりシャル様ほどの適性になると効果も派手ですね! ……さ、アンジェちゃん、思いっきりやっちゃって!」


「え? えっと……」


 何だかものすごく期待を込めた目で見つめてくるルシールに若干怖気づきつつ、アンジェはおっかなびっくり紙をつまみ上げた。


 その瞬間、何の前触れもなく、紙が消えた。


「……へ? あれ、アンジェちゃん紙取ったよね?」


「は、はい。というか今も持ってる感触はするんですけど……え、あれ?」


 そう、アンジェの指先は今も確かに紙のざらついた表面を感じている。にもかかわらず、視覚的には誰の目にも紙が見えないのだ。


 試しに指先の感覚を頼りに紙を箱に戻せば、アンジェから離れた瞬間に元の白いままの紙が現れる。アンジェがもう一度つまみ上げれば、その瞬間に再び消失する。


 アンジェとシャルロットが、謎の現象に顔を見合わせて疑問符を浮かべていると。


「……これは、まさか」


 しばし考え込んでいたルシールが、何かを確信したようにポツリと呟き、二人の視線が彼女に向けられる。


 そして。


「あらゆる属性の適性が最高ランクで、どの属性の効果を表すか判断しきれず姿を隠した……!? 適性ゼロで何の効果もあらわさないのとちょうど逆の事象……!? うぇへ、うぇへへ……やっぱり無茶苦茶……アンジェちゃんすごすぎるぅ……♪」


「る、ルシール! 気を確かに持ちなさい!


「ひぇっ」


 再び表情がでろんでろんに蕩けてしまったルシールを見て、シャルロットは彼女の肩を掴んで激しく揺さぶり、アンジェは思わず小さな悲鳴を上げるのだった。


 ===


 コメディ展開は書いてて楽しい


 何故アンジェがこんなにすさまじい魔力量と適性を有しているかについては次回!


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