第4章:謀略の影
第18話:戦いの後で
「もう、なんて無茶をなさるんですのアンジェ様!?」
耳がキーンと鳴るような大声に、アンジェは苦笑で返すしかなかった。
アンジェの力によって宙を舞う長剣の脅威が打ち払われた後、シャルロットは改めて襲撃者全員を魔力で生成したロープで拘束し、念のためと彼らが所持していた武装の類も全て風魔法で粉々に粉砕。
そうして安全を確保したところで、激痛の余韻から一歩も動けなくなっていたアンジェを軽々とソファに座らせ、事の顛末を聞き出していたのだ。
「あまりにも予想外の事象とはいえ、不覚を取ったのはわたくし自身。であればその責を負うのもまたわたくしでなければなりませんわ。アンジェ様が気に病むことなどないというのに……少しはご自身をお気遣いになってくださいまし!!!」
「ほ、ほら、でも私もこうして大丈夫でしたし、シャル様も怪我せずに済んだんですから」
「それは結果論にすぎませんわ! それに――」
シャルロットが不意に、アンジェの右腕を指先でつつく。ただそれだけの事で、アンジェは大きく顔をしかめてうめき声をあげた。
「……こんな刺激でそれほど痛がるような状態を、大丈夫とは言いませんのよ。過ぎたことは仕方がありませんし、もうこれ以上は何も申し上げませんが……二度とこんなことしないでくださいませ」
「……」
「返事は?」
「……はい」
いつになく強いシャルロットからの圧に、アンジェはしぶしぶ頷いた。
正直なところ、もし同じような形でシャルロットを救うことができるなら、アンジェは何度でも同じ決断をするだろう。それはアンジェ自身はもとより、シャルロットも察していることではある。……だからと言って、シャルロットとしては自分を顧みなさすぎるアンジェの行動を咎めないわけにもいかないのだ。
――本当に、その小さな体でどれだけのものを背負おうとしているのかしら。わたくしももっと精進して、今度こそ完璧にアンジェ様を
苦々しい思いを力に変えるように、シャルロットは決意を改めた。
「……それにしてもこの人たち、何だったんでしょう」
話を変えようとしたのか、アンジェが部屋の隅に集められた死屍累々を一瞥して、半分独り言のように呟く。どのみち二人では確かめようのない事柄なのだから、気にするだけ無駄なこと。アンジェも本気で知りたいわけではない。
シャルロットもアンジェの視線を追い、どこかうんざりした様子で肩をすくめつつ、
「どうせあのボンクラ皇子の差し金でしょう。まったく、わたくしが国外へお連れすることを約束したのに、なんてしつこい――」
そこまで言いかけたところで、不意に言葉が途絶えた。
不思議に思ったアンジェがシャルロットを見ると、彼女はまるで何度も読み返した魔術書の中に突然新しい一節を見つけたかのような表情をしていた。
かと思うと、視線を足元に落として何やら深く考え込み始める。時折小さな声で「いや、そもそもそうだとすると……」だとか「ならこの仮定そのものが……」だとか、考えを整理するかのように呟いており、完全に自分の世界に入ってしまっていた。
尋常ならざるその姿に、アンジェが声をかけるのをためらうこと数分。ガバッ、と音がしそうな勢いで顔を上げたシャルロットが声を絞り出した。
「……アンジェ様。やはり貴女は、聖女だったのですわ」
「……はい?」
何故、襲撃者たちについての問いかけ……ともいえないような言葉に対する返答が、『自分が聖女である』という断定なのか。
思考の過程が先ほど壊された扉以上に木っ端みじんなシャルロットの一言は、またしてもアンジェを混乱の渦の中に突き落とした。
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