第174話 第二戦
「ボクは外に出たい。百年後を生きる人達に避けようの無い終わりを押し付けるなんて嫌だ。それに、あの壊れた世界を、そのまま放っておくことも出来ない」
ぱちぱちと、レアが目を瞬かせる。
異論反論の有無を尋ねこそすれど、実際に返ってくるとは考えていなかったのだろう。
「まるで聖女のようなことを言うのね」
「そんな大層なものじゃないよ。ボクはただ、瓦礫の中に閉じ込められる恐怖と、そこから救って貰えた時の安堵を知っているだけだ」
胸元に手を添えたエイハが、ちらと俺の方を向いた。
「四年前、シドウは赤の他人でしかないボクと母さんの命を救ってくれた。ほんの数ヶ月前にも、死にかけていたボクを救ってくれた。その時の安堵も、寸前までの恐怖も、決して忘れられるようなものじゃない」
微かな震えを帯びた指先を、ぎゅっと握り締める。
「だからボクは王子様の、シドウのためならなんだってする。その上で、まだ瓦礫の中から救われていない人達に手を伸ばしたい。ボクがシドウから貰った安堵を、一人でも多くの人達に分けてあげたい」
それこそが、エイハが見知らぬ他人に治癒を施し続けた原動力なのだろう。
やっぱり好きだな。美しい。実は顔も好みだし。
「相変わらず心根だけは立派だこと。でも外に出たところで、貴女に何が出来るって言うのかしら?」
「……まずは道路整備、かな。重機の運転ならひと通り出来るし、物資を運ぶにしろ救助活動をするにしろ、差し当たっては交通インフラを整備しないと……青函トンネルが分断されちゃってるから、生きてる貨物船とかも探すべきだよね……」
「結構現実的な見通しだわ」
ぽつりと呟く姉貴。
全くだ。
「……そう。じゃあ、どうするの? 立ち塞がって私を止めてみる?」
「そのつもりだよ」
青いオーラがエイハを取り巻き、鎧となる。
対するレアは面倒臭そうに深々と溜息を吐き出し、模造槍を拾い上げた。
「折角良い気分だったのに……」
〈連戦を行うならば、その翼、妾の裁量で癒すことも出来るが〉
口出し無用とばかりに俺達のやり取りを黙って見ていたパンドラが、ほぼ飾りと化したレアの片翼を指し、提案する。
「要らないわ。飛ぶ必要なんて無いもの」
それを馬鹿馬鹿しいとばかりに一蹴し、槍の柄で肩を叩くレア。
「ねえシドウ君。一応加減はするけど、間違えて風穴空けちゃっても怒らないでね?」
「……ああ」
自分で戦うと決めたなら、そうなることも覚悟の上だろ。
ならば最早、俺からとやかく言える問題ではない。
万一の時は、助けに入らせて貰うが。
十メートルほどの間合いを取り、向かい合うレアとエイハ。
右手首を支点に回される槍が、ひゅん、ひゅん、と風切り音を響かせている。
「かったるいし、正直すぐ終わらせたいけど、瞬殺も大人気ないから三秒待ってあげるわ。
「年齢的にはボクの方が歳上だけどね……でも、それなら有難く使わせて貰うよ」
欠伸を噛み殺し、だらりと立ち尽くすレア。
右手を翳したエイハが、サードスキルを発動させた。
「
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