第170話 序
魔弾が俺のイメージを受け取って再現した銃声などものともせず、古武術特有の体重移動を用いた予備動作が分かり辛い踏み込みで、真っ直ぐ距離を詰めて来たレア。
銃相手に直進とは舐めやがって。まあ俺の弾がゼロ距離でしか当たらないことなど、向こうも重々承知しているのだけれども。
「ふっ……!」
下段から右肩狙いで放たれる、オーラを伴った刺突。
こいつは同じ魔剣や魔槍のオーラか魔甲の鎧、豪力や
発泡スチロールだろうと鉄の塊だろうと、等しく豆腐のように貫かれてしまう。
が、そんな条件はいつもと同じ。ファーストスキルは魔弾、セカンドスキルは縮地である俺には
つーかBランクの攻撃なんて姉貴以外なら掠っただけで髪の毛一本残らん。瞬間的にはボーパルバニーさえ押し返せるほど突き抜けた膂力特化だからこその、埒外な強度。
まあ防ぐだけならエイハも出来るが、アレは単純な肉体の強さとは全く毛色の異なる特性だし。
──ともあれ、刺突を左に躱す。
「シッ!」
虚空を穿った穂先が、そのまま俺を追って薙ぎ払われる。
事前の柔軟運動無しで一八〇度開脚もI字バランスも簡単に出来るほどの軟体。加えて外見に似合わず、そこらの成人男性なら腕相撲で負かせる身体能力。
こうやって攻撃の軌道を無理やり変えるくらいの芸当、朝飯前ってワケだ。
これを避けても更なる追撃に対処しなければならないだけなので、俺は敢えて前へと踏み込んだ。
魔槍のオーラは槍全体に及んでいるが、魔剣と違って攻撃性は概ね穂先に集約されるため、柄部分に触れてもダメージは無い。
「ッ」
引き戻そうとする槍を蹴りでカチ上げ、レアの腹に銃口を押し付け、発砲。
女性の範疇としては長躯にあたる身体が、数メートル後ろに飛んだ。
否。跳んだ。
「危ないわね。死ぬかと思ったわ」
「見え透いた嘘はやめろよな」
力動で豪力のリソースを腹部へと一点集中させ、その上でタイミング良く後ろに跳んで魔弾の威力を完全に受け流された。
魔弾は防御手段を持たない分、攻撃性に秀でたファーストスキル。セカンドスキル、サードスキルの発現によって性能自体も二段階底上げされており、今やDランククリーチャーの外套も一発で吹き飛ばせる代物だ。
向こうの豪力もサードスキル発現の際に性能が増してるのは同じであるにせよ、コンマ数秒でも間を読み損なえば腹に風穴どころか五体丸ごと四散するってのに、よくもまあ紙一重の対応を顔色ひとつ変えずやってのけるもんだ。
……などと驚いたフリはやめておこう。
相手は我が同類にして自称ライバルの霧伊レア。この程度、出来て当然だ。
「次は私の番」
そう言ってレアが腰から下肢にかけて力流動を行い、上へ百メートル近く跳躍する。
今日は赤か。しかもなんだアレ、下着の意味あんのか?
ミニスカートであんなもん穿ける神経が分からん。
「一刺確殺。一投鏖殺」
「なっ……レア!? シドウを殺す気!?」
「それを言うならシドウの方も割と躊躇無く撃ってたじゃない」
槍を逆手に構えたレアに向かってエイハが叫び、姉貴が突っ込む。
この位置だとオベリスクに被害が行きそうだな。少し離れるか。
「塵と化せ」
数十メートルほど縮地で移動した直後、投げ槍が放たれる。
腰、背中、肩、上腕、肘、前腕、手首、指先の順で投擲フォームに合わせて流動する豪力のリソース。
指先を離れた初速時点で亜音速、瞬く間に超音速へと達した一投が迫り来る。
こいつを縮地で避けても無駄だ。レアは魔槍の遠隔操作を行える。
全くスピードを落とさず直角、鋭角に軌道を変え、縮地発動直後のコンマ二秒の硬直をピンポイントで捉え、粉微塵にされるだろう。
なので今から、この技の対処法をご覧に入れよう。
「超音速ってのがキモだよな」
ソニックブームは当然音速であるため、槍本体よりも遅い。
その僅かなタイムラグを活かし、適宜対応して行く。
「今」
タイミングを読み、槍が俺を貫く寸前、正確に側面を撃ち抜く。
穂先に集中した魔槍のオーラはそれだけで大半が霧散し、あっさり弾かれる。
あとは衝撃波が来る前に数十メートルほど適当に縮地で移動すれば、完全回避。
遅れて着地したレアが明後日の方に飛んで行った槍を呼び寄せ、掴み取る。
「あー危ねぇ。死ぬかと思った」
「嘘」
…………。
よし。準備運動はこんなもんでいいだろ。
「チマチマじゃれ合ってたって千日手になるばっかりだ。さっさとケリつけて一緒に世界復興を目指そうぜ。手始めに中山競馬場の再建な」
「そうね。貴方には一生私と遊んで貰うんだし、この一戦だけ長引かせても仕方ないわ」
ひとつ息を吸う。
俺とレアは互いに同時に右手を翳し──頭の中の撃鉄を、落とした。
「「
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