第164話 世界の真実
パンドラの言葉に俺達がリアクションを返すよりも先、指を鳴らす音が響き渡る。
刹那、無数の画像──否、映像が空中へと直接映し出された。
SF映画でよく見る空間投影ディスプレイってやつか。
〈これらに映っておるのが今の外界の姿じゃ。欠片たりとも虚偽は無いと誓おう〉
原形すら留めず崩壊した街並み。地形が変わるほどに抉り取られた山野。焼け野原となった森林。丸ごと干上がった湖。
凄惨、などという言葉では片付けられないほどの地獄が、映像ひとつひとつを埋め尽くしていた。
「……これ……まさか都庁とスカイツリー!? なんで隣り合って倒壊してるのよ!?」
優に十キロ以上離れた巨大建造物が同じ場所に倒れる光景を見た姉貴が、目を見開く。
「富士山が、半分以上無くなって……何があったら、こんな痕……」
滑らかな球状に削り取られた霊峰の成れの果てに、エイハが顔を青褪めさせる。
「……まあ、こういう事態も一応は想定の内だったけど」
横浜や大阪などの百万都市が嘗ての旭川のような瓦礫の地平となった姿に、取り立てて驚いた様子も無くレアが呟く。
そして、映し出された光景は日本のものばかりではない。
アメリカ、中国、EU……世界中の名だたる都市が、国が、自然が、何もかも跡形も無く破壊され、滅び去っている。
…………。
しかし俺に動揺は無かった。なんなら、やはりか、とさえ思っていた。
レアの言う通りだ。壁の中に居る限り、俺達に外界を観測する手段など皆無であったため、話し合っても詮無いとして今まで一度も話題に上げなかったが……こういう事態を想定しなかったワケじゃない。
寧ろ、そこら辺のことは真っ先に考えていた。
崩界は明らかに作為的な事象だ。同じ人間か、宇宙人か、異世界人か、はたまた神だの悪魔だのといったワケの分からん連中か……黒幕までは見当もつかなかったが、ともあれ誰かの、何かの意思で引き起こされた。
そして意思が介在する出来事には、必ず理由も存在する。
今回の場合、可能性は大雑把に二種類あった。
即ち、赤い壁とは
俺は牢獄であると想定した。
壁の外では依然と元の世界が続いていて、七十億人が日々を過ごしているのだと。
そうでなければ。壁を脱したところで、報われないからだ。
オヤジも、姉貴も、エイハも、
けれども、外の世界が既に滅んでいるならば、その頑張りは欠片たりとも報われない。
そんな末路を迎えることがあまりに耐え難く、俺は一抹の不安を感じる度に退屈という言葉にくるんで吐き捨て、この
「……ホンットに……悪い予感、外れてくれねぇな……」
天才過ぎるのも考えものだ。
今回ばかりは、本気でそう思った。
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