第158話 疲弊と代償
オヤジの件と
俺は休息を挟むため白い塔近くのビジネスホテルに部屋を取り──どうにか歩き着いたベッドへと、うつぶせに倒れ込んだ。
「っ、はぁっ、はぁっ……はーっ……はーっ……ッ、げほっげほっ!」
〈シドウ様!?〉
荒く呼吸を繰り返し、何度か咳き込む。
すると右手のスキルスロットが輝き始め、気付けばラーズグリーズが心配げに俺の顔を覗き込んでいた。
「お、前……分離出来るんなら、もっと早く言──げほっげほっ!!」
一ミリたりとも身体を起こせない。
限界まで筋トレをした時のような極限の疲労感が、全身をくまなく巡ってる。
〈シドウ様……やはり
「それだけじゃねぇ、けどな」
ツェリスカの連射や縮地の連続発動による消耗も合わさっての疲弊。
本当なら姉貴が助かった時点でブッ倒れてしまいたかったが、人前でそんなみっともない真似出来るかってんだ。
寝る時以外は決して地に横たわらないのが俺のポリシー。ボロは纏えど心は錦。武士は食わねど高楊枝。ちょっと違うか。
「……ハッ。やはりノーリスクとは、行かなかったな」
重い右腕を引きずって側頭部、こめかみの少し上に触れる。
鉛色の髪に紛れた、硬い感触。
四本角のうち一本が、少し残ってしまっている。
「外套無しとは言え、Bランククリーチャーの肉体をああも易々と砕ける出力……人間のまま使い続けるなんざ、土台不可能だ」
寧ろ今回この程度の反動で済んだのは、きっと得難いほどの僥倖。
偏に俺が天才かつ最強のナイスガイだからだろう。普通の奴なら怪物に堕ちていた。
だが──
〈……シドウ様〉
「ああ。分かってる」
次はもう、戻れない。
あと一回でも
「くくっ」
さっきレアに
当然と言えば当然。この世に人間は自分と俺の二人だけだと思っているレアにとって、人をやめるって行為の持つ意味合いは何よりも重い。
アイツは恐らく死んでも
「まあ、いざとなったら、俺は躊躇わねぇが」
俺は人間が好きだ。だから人をやめたいとは思わない。
しかし、そうしなければ姉貴やオヤジ、この
それこそが、天才かつ最強のナイスガイである俺だけに成せる役割。
出来もしないことをやらせようとするのは酷ってもんだが、出来ることをやらないのは唾棄すべき怠慢だからな。
「……俺は時間まで寝る。お前は好きにしてていいが、部屋からは出るなよ」
〈承知〉
目を閉じると同時、半ば気を失うように暗がりへと落ちて行く意識。
きっかり六時間。夢すら見ずに、眠り続けた。
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