第152話 目覚め






「吹き飛べ」


 縮地でクトゥルフの側頭部に移動し、超至近距離から十数発の乱れ撃ち。


 外套の護りは無い。桁外れに膨大なエネルギーだったからこそ一朝一夕には回復せず、未だ剥ぎ取られたままだ。

 必然、生身でツェリスカの弾幕を受け止めることとなった頭部は瞬く間に原形を失い、八割以上が粉々の肉片となった。


〈ッ、哀れなり……我の頭など刎ねたところで──〉

「だろうな」


 間髪容れず、首の断面から更に七発。

 体内に潜り込んだ魔弾が暴れ回り、左の胸部から腕にかけてを食いちぎり、ごっそりと抉り取った。


 人間どころか他の動物であっても、まともな生物であれば即死は免れない破損。


 が。それでも俺の肌身が、四本の角が今も感じているチカラは、全く衰えていない。


〈ぐう、うぅ……調子に乗るなよ、虫けらァッ!!〉


 破損部分の再生を行いつつ、巨大な右腕に収斂される熱量。

 放たれた光帯を縮地で躱し、飛ぶことも辛くなったらしいレアが姉貴の側に着地した姿を見とめ、再度跳ぶ。


「折角新調した槍が形無しじゃねーか」


 合体槍は先端のランス部分が完全に壊れ、ほぼ後ろ半分を残すのみの有様。

 まあ、あんな投擲に三度も耐えられただけで、大したものだが。


「……そっちは、仮装大会のリハーサル中? ハロウィンには、まだ早いわよ」


 そんだけ軽口が叩ければ上等だ。

 俺としても、心置きなく頼み事が出来る。


「姉貴を周防オッサンのところまで運んでくれ」

「…………そう。分かったわ」


 多くを語らずとも俺の目論見を理解したのか、姉貴を抱えて素早く飛び去るレア。


 一方の俺は身を翻し、再三縮地を発動させ──バハムートの頭上に立った。


「チッ。たった四年の幽閉でパーになるような軟弱に、俺は故郷を壊されたのか……ッ」


 ふらつきかけた身体を、無理やり起こす。


 真化フルトリガーによって、体感で推し量る限りCランククリーチャーすら大きく上回るだろうスペックこそ得たが、決して今まで蓄積された分の疲労が消えたワケではない。

 重ねて、魔剣や魔槍よりは媒体への負荷が格段に少ない魔弾だが、現状の威力での連射は流石に無理があったらしく、早々にツェリスカが壊れかけている。高かったのに。


 残った体力からも鑑みて、撃てるのは精々あと数発。

 故に距離を取った。数発で倒すのは無理と判断した。


 何より──向こうには、と言ってやったことだしな。


「特別に、この天才がモーニングコールを入れてやるよ」


 銃口を足元、バハムートの頭に押し付け、ひたすらに撃つ。


 三発目で外套が揺らぐ。

 五発目でその護りを貫く。

 七発目で銀色の分厚い鱗に罅が入る。

 八発目でツェリスカが壊れ──山のような巨体が、衝撃で傾いた。






〈──…………お……ォ……?〉





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