第151話 真化
〈オーバーロード開始。我が勇士に、権限を委譲〉
熱量を噴き上がらせたラーズグリーズの肉体が、陶器のように罅割れる。
〈……シドウ様と過ごした日々は、ごく短いものでしたが……自らの目で見定め、自らの意志で寄り添うことを決めた御方。こうなることに、一切の悔いはありません〉
砂──否、光の粒子となって崩れ、渦を巻き、スキルスロットへと吸い込まれて行く。
〈今後は貴方の血となり肉となり骨となり、チカラの礎として……なんだかエロティックですね? そう考えると興奮してきました〉
「……俺を絶句させるような奴は、後にも先にもお前くらいなもんだろうよ」
〈お褒めにあずかり恐悦至極〉
褒めてねぇ。
そんな、最後だってのに締まらないやり取りを交わし──ラーズグリーズの全てが、俺の内へと溶け込んだ。
「ぐっ……うぅっ、ぐ……ああああぁぁぁぁッ!」
身体が熱い。溶鉄でも流し込まれたみたいだ。
莫大なエネルギーが体内で滅茶苦茶に渦巻いてる。気を抜くと何もかも弾け飛んで肉片になりそうだ。
このままでは戦闘続行以前の問題。さっさと手綱を握らなければ。
〈……哀れなり。チカラの塊である我等のひとつを取り込むとは。四散し、砕け散るのが関の山よ〉
〈そうでもないかと〉
何度目かの溜息を吐かんばかりだったクトゥルフの言葉に、ラーズグリーズが言い返す。
俺の頭の中から直接響き渡り、頭蓋の外へまで波紋した声だった。
「お前……意識が、残ってるのか……?」
〈そのようです。僭越ながら私が制御のお手伝いをさせて頂きますので、どうかシドウ様はごゆるりと身を任せ、他に注力を〉
破裂間際だったエネルギーの奔流が瞬く間に沈静化。然る後、静かに全身を満たす。
一転して心地良さすら感じつつ、俺は今の
「
その瞬間、セカイが停まった。
より正しくは、セカイが視える。
視界内の砂粒ひとつに至る全てが克明に、停まっていると錯覚するほど、ハッキリと。
「……ひとまず、知性の無い化け物にはならずに済んだようだな」
クトゥルフの攻撃によって遥か遠方まで押しのけられていた赤い水が、寄せては返す波の如く足元まで戻る。
揺れる水面に、俺の姿が映し出された。
「容姿も……まあ及第点か」
幸いにして大きくは変わっていない。
ひと回り筋肉質になった輪郭、更に倍近い長さとなった四本角、赤黒く染まった肌、強膜の色が白黒反転した三眼。
そして──義手を突き破り、ごく当たり前のように存在を主張する左腕。
流石は最大出力。発動中、五体満足化のサービス付きとは随分な大盤振る舞い。
…………。
だがしかし、この程度の変貌で収まったのは単なる幸運だと、本能的に理解する。
加えて、時間をかけ過ぎれば更に変容は進み、やがては戻れなくなるだろう、とも。
が。
「上等。こちとら元より短期決戦しか選択肢がねぇんだ」
敢えて余裕を口ずさむ。それが天才の流儀。
ツェリスカで両手を使ったガンプレイを披露しつつ、クトゥルフに向けて親指で首を掻っ切る仕草を見せ付けた。
「三分で、テメェを噛み殺す」
〈……よくぞ吠えた、落とし子よ。吐いた唾は飲み込めぬぞ!〉
生え揃ったばかりの
クトゥルフへと狙いを定め、ひと息に十二発、弾丸を見舞う。
一発がレアの全力投擲と同等以上の威力を備えた魔弾。
撃ち放たれた鉛色の光条は、クトゥルフ目掛けて落雷を超える速度で飛来し──全弾、その巨大過ぎる巨体に、掠りもしなかった。
「当たらねぇ」
利き手は別に関係無いのかよ。
どこまで射撃が下手なんだ、俺は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます