第143話 総攻撃






 今し方の一撃は、いかにCランクガーディアンであっても即座の連射は不可能。

 インターバルは概ね五分。二十六階層こんなところでBランク召喚符カードというジョーカーを易々とは切れないため、可能であるならソレで仕留めたい。


周防オッサン!」

「ああ」


 ガーディアン達は回復に専念するべく、

 イフリートの掌上で伏せ撃ちの姿勢を取った周防オッサンが、自分の背丈よりもデカい対物ライフルをブッ放す。

 クトゥルフの全身から生えたタコのような触手が数本、千切れ飛んだ。


「む……硬いな。アンツィオの一射体内まで届かんとは」

「けど流石に肉体の強度だけじゃノーダメージとまでは行かないみたいね──深化トリガー!」


 姿を変えた姉貴が背面の尾を使って麒麟の背中から跳躍し、クトゥルフに迫る。

 俺もまた縮地で間合いを詰め、肩口へと取り付いた。


「触手もそうだが、皮膚も肉も分厚いな」

「少しずつ削げばいいわ。私の異名、忘れたの?」

「着せ替えアウラ」

「切り裂きアウラよ!」


 レアと比べれば不完全だが、深化トリガーによって跳ね上がった膂力を合わせることで強引に成立させた力流動。

 刃渡りだけで二メートル近い巨剣を棒切れのように振り回し、向こうも深化トリガーを発動させた周防オッサンの援護射撃を受けつつ、姉貴は首周りの触手を落として行く。


「シドウ!」


 ひとしきりムダ毛処理が片付いた頃合、立ち位置をスイッチング。

 表皮が露わとなった首と思しき箇所の付け根にツェリスカの銃口を押し付け、十六連射。


「ハッ。ガリガリ持って行きやがる」


 ピースメーカーを媒体に使った時の比ではない出力。

 それだけに一発毎の消耗も半端ではなく、軽い貧血に似た感覚が


 だがしかし、得られた破壊力も消耗相応。

 メートル単位の分厚く強靭な皮膚を抉り飛ばし、露出される毒々しい緑色の肉。


 俺は姉貴を抱えるとファフニールの背まで再び縮地を使って跳び、片翼を羽ばたかせて空を舞い、既にの体勢へと入ったレアを見た。


「一刺確殺。一投鏖殺」


 二槍を繋げた合体槍。

 媒体の巨大化による影響か、こちらもまた以前の十字槍とは比較にならない出力。


「 塵 と 化 せ ぇぇぇぇッッ!!」


 どうでもいいがあの掛け声、ラーズグリーズの即興口上と違って毎回固定なあたり、結構気に入ってる模様。


 レアの指先を離れた時点で亜音速に達し、標的へと届く頃には音速を超えた合体槍。

 その穂先が触手を刈られ、皮膚を削がれた首元に触れた瞬間、衝撃波を撒き散らしながら、骨肉を大きく抉り飛ばす。


 五秒。十秒。十五秒。

 差し渡し四メートルもの大槍が爪楊枝に等しい巨体をドリルのように掘り進め、やがて数十メートル先の背中側を貫通。

 纏われていた膨大なオーラを殆ど使い果たしながらもBランククリーチャーの身体に風穴を穿った槍は、レアの手元へと戻って行った。


「……いける……倒せ、る……?」


 そんな光景に手応えを感じたのか、半ば呆然と呟く姉貴。

 しかし俺は、ここまでの一連に対し、気持ちの悪い疑問ばかりが先立っていた。


 ──何故、奴は何もしない、と。


「チッ……浮かれるのは後だ姉貴、このままファフニール達が回復するまで攻撃──」


 異音が耳を劈いたのは、言葉の途中。


「ッ!?」

「何よ、これ……!?」


 鼓膜がイカレるんじゃないかってレベルの、汽笛やラッパを鳴らすみたいな低音。

 咄嗟に耳を塞ぐも、直接内臓を掴んで揺さぶられてるみたいな感覚に吐き気を覚える。実際、満腹だったら吐いていたかも知れない。


 やがて、少しずつ音が引き始めた頃合──それがクトゥルフのだと、気付いた。


〈かゆい〉





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る