第136話 決戦仕様






 二十一階層の時と同じく、今回の出立も大々的な公表は差し控えられており、一時立ち入り制限が掛かったエレベータールーム内は、俺達を除けば数名の協会職員、代理政府職員が居るのみ。

 俺という全宇宙を照らす太陽にも等しいナイスガイの門出にロクな見送りも無しとは肩透かしもいいところだが、まあ不平不満を並べ立てても仕方あるまい。凱旋時にでも盛大に祝ってくれ。


 ちなみに敢えて前回と明確に違う部分を挙げるならば、昨日既に十六階層へと経ったエイハが来ていないってところと──俺達四人それぞれが携えている装備の物々しさだろう。


 まずレアの厳つい二槍、合わせれば差し渡し四メートルに達する合体槍は、言うに及ばずとして。


周防オッサン。なんだその馬鹿でかい銃」

「アンツィオ20mm……個人携行可能な中では、最高峰の威力を備えた対物ライフルだ」


 全長約二メートル、総重量六十キロ以上、射程距離はヘカートⅡのおよそ二倍。

 最早ライフルと言うより、戦闘機の機銃でも取り外して持ち出したかのような威容。


「特注でモデルガンを作らせたはいいが……あまりに重過ぎる上、Dランククリーチャー《程度》を撃ち抜くには、あまり過分な代物で……ずっと、物置で埃を被っていた」


 エレベーターの重量制限解除を受け、ようやく日の目を浴びる機会を得たってとこか。

 何にせよ頼もしいね。推測されるBランククリーチャー共のスペックを思えば、火力はいくらあっても足りないくらいだ。


「姉貴も、そんなもん本当に振り回せるのか?」

「当たり前じゃない」


 それは剣と言うには、あまりにも大きすぎた。

 大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。

 それはまさに、鉄塊だった。


 などという冗談は兎も角、切っ尖から柄頭までの差し渡しは周防オッサンのアンツィオにも引けを取らず、横幅に至っては姉貴の細せぇ腰回りを優に超える模造剣。

 剣と言うより大剣。大剣と言うより本当に鉄塊のような、重量にして百キロを回るだろう化け物剣。姉貴の体格でよく背負えたもんだ。


「流石は馬鹿力」

「何か言った?」


 いや何も。

 皆さん備えは万全みたいで大変結構。


「シドウ君のも、新しい武器?」


 と、おもむろにレアが指差したのは、俺の持つ楽器ケース。

 本当はトランペットあたりを仕舞う物なのだが、妙に収まりが良かったんで使ってる。


「流石に、腰にぶら下げるにはデカ過ぎるんでな」


 コツコツと硬いケースの表面を叩く。

 なんだかんだ休暇中の買い物で、こいつが一番高価だったかもしれん。

 次点で姉貴のネックレス。今も身に付けてる。


「それじゃあオヤジ。行って来るぜ」

「……ああ」

「ハッ。なんてツラしてやがる、らしくもねぇ。子供の心配なんかするタマかよ」


 二十五階層行きエレベーターの開閉スイッチを押す。

 ゴリゴリと長時間聞いてたら具合が悪くなりそうな音を響かせ、開かれる石の扉。


 …………。

 ところでこれ、ちゃんと全員乗り込めるんだろうな。





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