第135話 雑賀の晩餐






「三人揃ってこの店で食事をするのも、最後になるやも知れんな」

「何不吉なこと言ってんだ、このハゲオヤジ」

「私はハゲてない!」


 札幌駅近く、高層ビル内の個室レストラン。

 いつものメニューを口にしながら、家族三人で談笑する。


「……前に集まった時は、お前に特級に上がれと言ったな。二十一階層以降への進出計画のために、と」

「それが今回は二十六階層。あれからまだ二ヶ月くらいなのに、随分と急な話だわ」


 姉貴がコンフィをひと口分差し出して来たので、ありがたく頂戴する。

 美味い。


「……そうだアウラ、シドウ。お前達に言っておくことが──いや、やはりいい」


 何やら神妙な顔で口を開き、しかし途中でかぶりを振って取りやめるオヤジ。

 珍しく歯切れの悪い。なんだってんだ一体。


「何よ父さん。もしかして再婚の予定でも?」

「私はエリカ一筋だ。生涯他の妻など持たん」


 知ってる。


「……今伝えてしまうと、恐らくお前達は寝る時間が取れなくなる」


 何言ってんだコイツ。

 天才舐めんな。寝ようと思えば三十秒で夢の中だわ。


北海道セカイの危機が片付いたら、また食事の席を設ける。その時には必ず話す」

「縁起でもない約束だわ」


 確かに。典型的死亡フラグ。

 尤も、天才はそんなものに運命を決定付けられたりしないんだが。


 …………。

 ただ、それ本当に聞いて大丈夫な話か?

 なんかよく分からんが、俺の今後の人生に関わるレベルの内容な気がするんだけど。






「Bランククリーチャー、か。そんな存在ものに支配された二十六階層から先は、一体どのような地獄が広がっているのだろうな。とは言え私に、それを確かめる術は無いが」


 酒の回ってきたオヤジが、溜息混じりに独りごちる。


「シドウ。アウラ。お前達は私などには出来すぎた子宝だ。だからこそ、お前達に縋らねばならんこの状況が歯痒くて仕方ない」

「飲み過ぎよ父さん」


 姉貴が嗜めるも、オヤジはグラスから手を離そうとしない。

 ちなみにザル通り越してワクな姉貴もオヤジと同量以上飲んでるが、ケロッとしてる。


「……まだ私にも、出来ることがある筈だ」

「いやオヤジ、アンタ普通に現時点で働きすぎだろ。たまには家のベッドで寝ろよ」


 バハムートの封印解除を議会で承認させただけで結構な大金星。

 それ以上の成果を求めるとか、ただの馬鹿かどうしようもない業突く張りだぞ。


 第一。


「この天才かつ最強のナイスガイと、ついでに姉貴も出張るんだ。王様は王様らしく、ドーンと宇宙船にでも乗った気分でふんぞり返ってやがれ」

「そうね。ついで扱いは心外だけど」


 鈍臭の姉貴にメインなんか張らせたら、すぐ死んじまうに決まってるだろ。

 だから、いいんだよ。ついでで。





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