第134話 決意
無事に目的の品──Bランク
まあ段取りなんて言っても、細かい部分は完全な現場判断だ。
何せ、向かう先の環境も立ち塞がっている敵の能力も姿も名前も、あらゆる部分が完全な謎なのだから。
唯一、判明してる点を挙げるなら──強い、なんて言葉では到底表現しきれないような、まさしく生きた天変地異が待ち構えてるだろうってことくらいか。
「……本気で言ってるのか?」
「うん」
三十分とかからず終わった話し合いの後、伝えたいことがあると俺を呼び止めたエイハ。
あまりに真剣なもので、すわ結婚でも申し込まれるのかと思ったが、蓋を開ければこの天才にも少しばかり予想外な宣言だった。
──ボクは今からサードスキルを発現させるために十六階層に行く、と。
「無理だと思うかな?」
「無謀とまでは言わん。だが相当に分の悪い賭けだぞ」
エレベーターの重量制限こそ取り払われたが、あの狭い中に、しかも装備が大幅に増えた俺達五人全員が乗り込むのは無理だ。
そして残留する人員を選ぶなら、満場一致でエイハとなる。
故に今、彼女が離脱すること自体は取り立てて問題無いのだが……。
「アウラさんから迂回ルートの地図は貰った。必要な物資も揃えてある」
「しかし、なんだってこのタイミングで」
「あはは……本当はもっと早く出発したかったんだけど、一緒に来てくれる探索者を見付けるのに苦労してね」
苦笑を挟み、それからエイハは強い眼差しで、真っ直ぐ俺を見た。
「今のボクじゃキミの役に立てない。だけどサードスキルを発現させれば、少しくらいは今よりマシになれる筈だ」
赤い指輪の使用実験に付き合わせたため、エイハは二十五階層行きのエレベーターを稼働させることが出来る。
そんな彼女がサードスキルを獲得すれば、確かに最低限の頭数には、なる。
だが危険だ。
何より、エイハの参戦がその危険に見合う成果になるかと言えば、だいぶ怪しい。
「前にも言ったろ、歩みの速さは人それぞれ。天才は焦ら──」
「ボクは」
ぎりっ、と歯軋りの音。
「ボクはキミの役に立ちたい。キミから受けた恩義に報いたい。その気持ちを、想いを、口先だけのものにしたくないんだ」
「…………成程。そうか」
やめた。これ以上の静止は野暮だ。
となると他に確かめておくべきは、ひとつ。
「同行する奴ってのは、どこのどいつだ?」
重量制限同様、エレベーターの使用制限もまた解除されたため片道で済むとは言え、少なくとも一週間、順当に考えれば十日近くあの極寒地獄を共にする相手。
信用が置ける者を選ばなければ、挑戦以前の問題。
「ああ、それなら──」
「──俺が行く」
エイハの言葉尻を引き継ぎ、小会議室に踏み入って来た人影。
その声に聞き覚えがあった俺は振り返り、そして少しだけ目を見開かせた。
「お前は……」
スキンヘッドの強面男。
今はもう失脚した代理政府議員が主催していた闘技場のチャンプであり、この
つーか俺が教えたんだけど。
「この嬢ちゃんがサードスキルを発現させるための同行者を探してるって話を耳に入れてな。強力なガーディアンがポンポン出回り始めて誰でも簡単に金が稼げるって中で、わざわざ危険を冒してでもサードスキルを手に入れようなんて物好きだ。まさかと思って確かめてみれば、案の定お前の関係者だった」
しかし、なんでコイツが
あ、いや、議員の子飼いだったんだ。そりゃ出入りくらいしてただろう。
「……タイムリミットが縮まったことは聞いた。この嬢ちゃんがサードスキルを手に入れてお前達の戦力に加われば、それを止めるために少しでもプラスになるのか?」
そりゃまあプラスかマイナスかで言えば、多寡の話を抜きにしたら確実にプラスだが。
「勿論」
「そいつが聞ければ十分だ。必ず送り届ける」
前に会った時と同じ険しい顔で、けれども前とは違う目の光を灯し、部屋から出て行こうとするスキンヘッド。
「待った」
なんとなく呼び止めた俺は、ひとつ聞いてみることにした。
「数ヶ月後に滅ぶと決まった
「……滅ぼさせないためだ。俺にもう家族は居ないが……守りてぇモンのひとつくらい、ある」
そっか。
「もうひとつ。アンタ名前は?」
「
覚えとく。
エイハを頼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます