第133話 禁忌保管庫






 俺は今までに何度も代理政府の政庁まで足を運んでるが、当然庁内の全施設に入ったことがあるワケではない。

 取り分け、隅っこに離れたは立ち入りが厳重に制限されており、近付くのも今日が初めてだ。


「そういやオヤジ。面と向かって聞いたことなかったが、の設備は一体どういう経緯で見付かったもんなんだ?」

「元はモノリスの近くに落ちていた一枚の、一メートル四方程度のプレートだった。その上に偶然コインを落とした際に起動し、枚数に応じて地球上のあらゆる物質への変換が可能だと発覚した」


 黎明期の終わり頃、赤い壁で閉ざされた北海道セカイへの順応を示すべく、初めてGランクガーディアン達を労働力として使い、羊ヶ丘へと建てられた政庁。その敷地内に位置する札幌ドームを改築して作られたチャンバールーム。

 殺風景でだだっ広い床一面には、オヤジ曰くの『チャンバー』だという金属プレートが敷き詰められていた。


「チャンバーにはコインをに変換する機能も備わっていたからな。こうして繋ぎ合わせ、数百万人分の物資だろうと即時補充可能なだけの面積を確保した」


 木材、鋼材、食材、ガソリン、プラスチック、エトセトラエトセトラ。

 コイン次第でなんでも好きなだけ手に入る、馬鹿でかい自販機。


「肝心のコインが見当たらねぇな?」

「チャンバールームとコイン保管庫は当然分けてある。必要な時に必要な数量だけ持ち込み、必要とされる物資にのみ変換する。置きっぱなしにして、いたずらに警備や監視の出来心をくすぐる理由も無い」

「ハッ、そりゃそーだ」


 自衛隊とかでも武器庫と弾薬庫は別々だしな。

 本体と燃料を一緒にしとくなんてザル管理、オヤジがしでかすワケねーか。


「……我々の目当ては、この奥に封印されている。行くぞ」

「あいよ」






 協会の召喚符カード保管庫に似ているが、より分厚く頑強な鉄扉。

 その左右の壁に埋め込まれたコンソールへと、オヤジと姉貴が同時に打ち込みを始める。


「十六桁の数字を左右で六秒以内に打ち終わらねばこの扉は開かん。単純な仕掛けだが、少なくとも単独では不可能な作業となる」

「開錠コードは父さんと数人の議員が一部ずつ保管する決まりだったの。それが一ヶ所に揃うのなんて、今回が初めてじゃないかしら」


 甲高いデジタル音がサイレンのように鳴り響き、開き始める鉄扉。

 やがて露わとなったその先に見えたのは、二十メートル四方の部屋と──部屋の中心に鎮座する、十メートル四方の巨大な箱。


「こいつが『禁忌保管庫』だな」

「そうだ。六面を覆うのはチタン合金製、厚さ四メートルの壁。内部の空洞にはコンクリートが流し込まれ、一分の隙も無い」


 ファーストスキルの前では紙細工に等しいが、と続けるオヤジ。

 確かに大袈裟が過ぎる代物。こいつを作るために、どれだけのコインを投じたのやら。


「開ける方法は無い。破壊する以外にな」

「姉貴」

「シィッ!」


 剣を抜いた姉貴が剣身へと桜色のオーラを纏わせ、ひと息に十二の斬撃を繰り出す。

 そしてそれを鞘に収め、鍔鳴りが室内に波紋した後──チタン合金の宝箱に太刀筋の跡が奔り、その軌跡通りに斬り刻まれた。





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