第132話 休暇最終日
たっぷり二週間満喫した休暇も、今日で最終日。
明日にはオヤジからの結果報告が出され、そしてそれがどう転ぶ内容であったにせよ、俺達は明後日、二十六階層へと進出する。
「おい、おいレア。お前ハメ技やめろ」
「そんなもの存在しないわ。抜け出せないへたくその言い訳よ」
「また言いやがったな。曲がりなりにも女子高生からのへたくそ呼ばわりは死人が出るって何度教えれば学ぶんだテメェ」
ひと通りアウトドアを楽しみ尽くした俺は、現在格ゲー中。
CPUだと全く相手にならないため、レアと対戦でやっているのだが……コイツ、三戦に一回は害悪戦法使ってきやがるから死ぬほど腹立つんだよな。
「おい、おいレア。投げハメだけはやめろ、お前。いくら穏やかな心を持つ俺でも、激しい怒りで伝説の天才最強ナイスガイ人に目覚めるぞ」
「えい」
「あ」
雀の涙だった体力ゲージを削り切られ、画面上に大きく表示される『2P WIN』の文字。ちなみに俺は1Pだ。
「ふっ……私の勝ち。これで通算一〇六戦五五勝四〇敗一六引き分け、また勝ち越しね」
「あ? 何いい加減なサバ呼んでやがる。一〇六戦五四勝三八敗一四引き分け、まだまだ俺の独走中だろうが」
至近距離で睨み合い、手帳に記した今までのリザルトという動かぬ証拠を突き付けるも、レアの奴も己の述べる戦績が羅列されたメモ帳を見せ付けて来て埒が明かない。
…………。
「よし分かった、なら二戦目だ。今日という今日は決着をつけてやる」
「望むところよ、叩きのめして──あげたいところだけど、生憎と時間だわ」
俺同様に体内時計が一秒単位で正確なため、インテリアも兼ねて一応置いてある部屋の時計には一瞥もくれず、踵を返した。
なんだってんだ。
──ふぉん、と弧を描くように振るわれる穂先。
完璧に均一な軌跡を彩る、銀色の残影。
「うん、悪くないわね。高くついたけど」
白い塔一階、探索者支援協会の一角である訓練場に響き渡る、柔らかな風切り音。
急に出掛けて何かと思えば、新しい模造槍の受領が目的だった模様。
しかし。
「お前が修めた宝蔵院流槍術って、十字槍を使う流派じゃなかったか?」
先代の得物は、石突から穂先まで二メートル前後の短槍だった。
「あんな使い辛い対人用技術、とっくにやめたわ」
けれども今回の槍は、差し渡し四メートル近い長槍。
そのうちおよそ半分が、細長く鋭い円柱状の穂先。
馬上試合用の槍、所謂ランス。
本来ならこんな長物、エレベーターでつっかえるためハナっから持ち込めないが、レアの槍は穂先を取り外しての二分割が可能な組み立て式で、なんなら分割状態でもそれぞれ槍として使えるらしい。代わりに相当重くはなったが、その重量相応の強度も得たとか。
「地上戦では二槍、空中戦なら合体槍。全力で投擲しても、数回なら耐えられる……ふふっ。この天才儚げ美少女探索者唯一の泣きどころだった武器が改善された今、最早私に隙は無いわ」
歩兵の使用など想定されていないだろう、自分の身長よりも倍以上長い槍を踊るように平然と振り回し、周囲の注目を集めるレア。
積極的に害する理由が無いだけで人類の存続になど一切無関心な女だが、相手がBランククリーチャーとあっては腰を据えなければマズいことくらい、当然分かり切ってる。
故にこその備え。あの形状の方が、レアの最大火力を発揮させる投擲に関しては先代より何倍も適切だ。ボーパルバニー戦で露呈した攻撃力の不足を補うため、デカくて重くて硬い武器を用意したってワケか。
…………。
成程。どうやらお互い、考えることは同じらしい。
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