第129話 ラーズグリーズ






 二十五階層に着いた俺はエレベーターを降り、持参したパイプ椅子のうち二脚を対面で並べる。


 次いで懐から召喚符カードを出し、ラーズグリーズを喚んだ。


〈──このような場にお呼び立てされたということは、いよいよ私の操を貪るおつもりでしょうか?〉


 何言ってんだコイツ。


〈しかし生憎と私は戦乙女ワルキューレ。処女を失えばオーディンより賜りしチカラも消え、ただの女も同然の身と成り下がりますが……それでも構わぬと申されるのであれば、どうぞ心行くまで御賞味下さい〉


 ホント何言ってんだコイツ。


〈まあ嘘ですが。そういう付加価値を設けた方が殿方は興奮されるのでしょう?〉


 いっぺんシバこうかなコイツ。






「お前に聞きたいことがある」


 お互いパイプ椅子へと腰掛け、折り畳みテーブルに菓子類を広げてから、そう告げる。

 まあ好きに摘んでくれ。ただし俺はきのこ派だ、たけのこは無いぞ。

 ちなみにレアはたけのこ派なんだよな。やはりアイツとは気が合わん。


〈ここ数日で我が姉妹、スルーズとレギンレイズが排出された気配を感じましたので、三対三までなら合コンのセッティングは可能ですが〉


 誰がそんなこと聞くか。

 と言うかガーディアンが合コンを企画しようとするな。以前もボーパルバニーがネットミームに毒されてたが、どこで覚えてくるんだそういう俗インフォメーション。


〈ただしワルキューレは勇士一人につき一体までとヴァルハラ条約で決まっておりますので、シドウ様が私以外の姉妹を手に取られても召喚は不可能もがもがもがもが〉

「聞いてもいないことを喋り過ぎだ。無駄話自体は俺も嫌いじゃないし後でいくらでも付き合ってやるが、まずは質問に答えろ」


 立て板に水で喋り倒されては会話にならないため、崩界直後の一時期は一本三百円まで値上がりしてたンマイ棒(あの日忘れた夢の味)を滑らかに動く口の中へと突っ込む。


 目を見開き、もぐもぐ咀嚼するラーズグリーズ。

 俺は食ったことの無いフレーバーだが、それなりに美味い模様。


〈……ふう。グリンカムビの照り焼きを思い出させる逸品を馳走頂き、感謝致します。それで、私に尋ねたいこととは?〉


 やっと本題に入れる。

 薄々分かってたことだが、コイツ相当に愉快な性格だな。


「お前が初めて召喚分カードから出て来た時、口走っていた言葉の内容に関するものだ」

「……? …………??」


 眉をひそめ、小首を傾げ、腕組みし、更に深く首を傾げさせるラーズグリーズ。

 まだ二ヶ月も経っていない、しかもあんな意味深長に呟いてたことを忘れるって、一体どんな頭の構造してやがるんだ。


「……とやらについて、お前が知る全てを教えて貰おうか」





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