第124話 姉弟の恋バナ






「ところでアンタ、結局レアちゃんとエイハちゃんのどっちが本命なの?」

「またその話か。好きだね全く」


 スノボの後はホテルで卓球にバスケと、ひとしきり満喫した後に夕食。

 遊んだ遊んだ。こんなに遊んだのは三日ぶりくらいか。遊んでばっかの人生だな俺。天才は汗水垂らして努力とかしないし、当たり前っちゃ当たり前か。


「いいから答えなさいよ。二股してるとか言ったらマジビンタするから」

「どっちとも付き合ってねぇっての。もし選ぶならエイハ一択だが」


 レアは駄目だ。恐らく堕落ルートしか存在しない。

 お互いのめり込み過ぎて、七面倒な諸々全てを投げ出すに決まってる。


 まあエイハもエイハで奉仕願望が強過ぎて、レアよりは百億倍マシだが懸念は残る。

 具体的に言うと、俺にヒモであることとか要求してきそうだ。


「姉貴こそどうなんだよ。近くに俺みたいな完璧過ぎるナイスガイの見本が居るせいで選り好みしたくなるのは非常によく分かるが、二十五とか良い感じに適齢期だし、身を固める準備くらい始めても良いと思うけどな」


 それに。


「先週あたり、周防オッサンから三度目のアタック受けたんだろ?」

「……? そんな記憶は無いけど」


 はて、そいつは妙だな。他ならぬ周防オッサン本人からの情報だってのに。


「あ。もしかしてこの前ラッパーみたいな格好で「丸くなったな切り裂きアウラ、ディスってみろこれはフリースタイル」とか言ってきたアレかしら」


 何やってんだあの人。

 それのどこら辺がアプローチになるんだ。天才の頭脳を以てしても意味分からん。


「なんて返したんだよ」

「服が変」


 確かにあの私服のセンスは無いと思うが、ディスりってか単なる悪口。

 耳が悪くなるようなデスメタルしか聴かない姉貴にフリースタイルラップのルールなんて分からんだろうし仕方ないが。つーか俺も知らん。


「悪りぃ人じゃねーとは思うんだがな。ちょっと気持ち悪いけど」

「私だって別に嫌いってワケじゃないわよ」


 ナプキンで口元を拭いた姉貴が、軽く肩をすくめる。


「なんだかんだ半年以上二人でチーム組んでたもの。腕は疑ってないし頼りにもしてる。ちょっと気持ち悪いけど」


 うーむ。ちょっと気持ち悪いと思われつつも割かし高めの好感度稼ぐって、寧ろ普通に好かれるよりも難易度高いんじゃないのか。

 俺も別にあの人が義兄になることは抵抗無いし、オヤジも多分同意見だろうし。


「でも付き合うとなると当分は無理」

「服のセンスのせいか?」

「そんなの私が選べばいいだけの話でしょ」


 確かに。


「じゃあ姉貴の言う当分ってのは、何を指しての当分なんだ」


 空になった姉貴のグラスに飲み物を注ぎながら、そう尋ねる。


「アンタが誰かと結婚したら、かしら」


 空になった俺のグラスに飲み物を注ぎながら、そう返される。

 そいつは随分と先の話になりそうだ。





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