第118話 詰めの一手
──良くねぇな。流れが滞った。
片腕を奪い、武器を奪い、冷静さを奪い、真綿で首を絞め上げる。
既に数十発の魔弾を骨肉に浴びせ、段階的にだが確実にダメージも重ねている。
だがしかし、俺はこの状況を喜ばしくは思っていなかった。
寧ろ逆。
「チッ。タフ過ぎるだろ」
想定を上回る頑強。肉体そのものは決して破壊困難な強度ではないが、外套のエネルギー密度が高過ぎて魔弾の威力が著しく減衰される。
当てても当てても、致命打に届く気がしない。
既に二十四階層へと踏み入ってから五分以上。
あと数分で時のねじれが始まり、また無益にタイムリミットが縮まってしまう。
何より、これ以上ボーパルバニーを精神的に追い詰めるのは得策じゃない。
獣が死を覚悟して開き直ったら理詰めで行動を先読みする難易度が跳ね上がる。そうなったら、元々スペックでは圧倒されてるんだ。流石の天才最強ナイスガイも攻撃を完全回避とは行かなくなる。
そして一撃でも貰ったら、魔甲も豪力も発現させていない俺のフィジカルじゃ、いくら
どうしたものか。
一度に十発以上、急所への一点集中で叩き込み続ければ仕留められるだろうが、コイツ相手にその数字は流石に現実的と言い難い。
けれど、このままではジリ貧。ダラダラ続けたところで、勝率は下がる一方。
…………。
天才は焦らない。ひと呼吸入れようか。
「?」
縮地で距離を置き、激しい動きの中で浅くなっていた息を深く吸う。
すると奇妙にもボーパルバニーからの追撃が来ない。ボロボロなのは見た目だけで、そこらの町を片手間に半壊させられる程度の力は残っているだろうに。
──そう言えば、俺が攻撃を始めた頃合から、妙にアタリが弱くなったな。
〈うううぅ、ううううううううっ〉
こちらを睨み付ける、黒い強膜で縁取られた金色の瞳。恨めしげな唸り声。
だが肝心の敵意や殺意は横這い。なんなら薄れ始めている。
「……?」
立ち止まって思案する時間が出来た俺は、取り敢えず他のことを一旦打ち切り、考えを巡らせた。
今までのボーパルバニーの言動。今のコイツの様子。
それらひとつひとつを拾い上げ、繋ぎ合わせ──やがて、結論に至る。
「ああ。成程」
たっぷり数秒間の棒立ち。相手のスピードを考えれば致命的どころではない即死級の隙。
けれども俺はまだ生きている。なんなら擦り傷ひとつ負っていない。
「なんだ、そうか」
納得した。得心が通った。
であれば、それを利用しない手は無い。
「お前」
俺は銃を握ったままボーパルバニーを指差し、指摘する。
「虐めて欲しいのか」
遊び半分な殺戮者の皮を被った、コイツの本性を。
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