第114話 三度目の兎






 枯れた木立ちを駆け抜けて、開けた場所に出る。


 その中心にはエレベーター。まるで塔のように柱のように、高く高く曇天を貫き、更に先まで向かっている。


 ──そして。概ね俺とエレベーターを挟んだ中間に立つ、一匹のヒトガタ。


「当たらねぇ」


 取り敢えず挨拶がわりに六発ほど魔弾を見舞うも、全てあらぬ方向へと飛んで行く。

 こうも当たらないのって、やっぱ元々は左利きだったからってのも理由のひとつかね。器用さに於いても天才なもので日常生活とかその他諸々に不便を感じたことは一切無いんだが、片手での射撃ともなると勝手が違うのかも。


 あと、あれだ。当たらないと分かり切った上で無駄弾を撃つというワンクッションを挟むのも、強敵を前にしながらの遊び心が感じられて余裕を保つのに良いかもしれない。

 あらゆる行為にメリットを見出せる俺、よっ天才。いやー知ってる知ってる。


〈……キャハッ。早かったなニンゲン。そんなにワタシに犯されたかったか?〉

「まさか。冗談は存在だけにしておけ。なんだよ刀で武装したバニーガールって」


 よくよく考えたら、いや、よくよく考えなくても意味が分からん。


〈ちょうど良かった。オマエの歯形が疼いて、イライラしてたところだ〉


 十日余りの間で元通り直った骨刀を足元に突き立て、鋭利な指先でガリガリと首筋を引っ掻くボーパルバニー。

 成程。そんな風に掻きむしってたら、治るものも治らない。


〈キャハッ、キャハハッ。楽には死なせないぞ。手足を寸刻みにしたら巣まで連れ帰り、犯して犯して犯し抜く。ここでは飢えることも渇くことも無い。オマエが老いてくたばるまで、永遠に飼い続ける〉

「だからそれ、どういうリアクション返すのが正解なんだ。アホの分際で天才にも分からん難題を出すんじゃねぇよ」


 ここで丸一日も過ごせば、外では優に一年以上が経過する。

 そうなったら何もかも終わり。赤い壁の光は消え、動力源を失った白い塔は機能を停止させ、エレベーターも動かなくなり、この階層は完全に断絶されてしまう。


 つまり、もしここで敗れようものなら、俺は北海道セカイから目の前のウサギへと牢獄を移送されるってことか。

 天才かつ最強のナイスガイには、およそ似つかわしくないバッドエンドだ。御免被る。


「……ま、絶対に訪れない不幸な未来のことをあれこれ考えるのは後だ。こちとら時間が無い、早速始めさせて貰うぞ」

「キャハハハハハハハハハハハハハッ!! いいよ、いいね、遊びましょっ! 相手の手脚を斬り落とす殺戮ごっこ! ばらばらばらばらばらばらばらばらっ!!」


 骨刀を持ち直し、斬撃を飛ばすべく五十例だめに構えるボーパルバニー。

 併せて俺は上目掛けて魔弾を撃ち放ち、合図を飛ばした。


「叩き込め、ラーズグリーズ」

「承知──オーバーロード、開始」





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