第112話 横紙破り
──二十一階層へと到着し、エレベーターの扉が開いた瞬間、俺とレアは殆ど同時、目の前の峡谷を駆け出す。
上空から鐘の音が鳴り響く中、向かったのは先日ボーパルバニーと交戦した地点。
ラーズグリーズの
当然と言えば当然だろう。ここは俺達と同様、ねじれた時の内に在ったため、あれから一日しか過ぎていない。
流石にその程度の経過で塞がるほど、矮小な爪痕ではなかった。
「こっからは少し忙しくなるぞ。半ば運ゲーな上に時間との勝負だ」
──
敢えて悠然と構えながらサードスキルを発動させる。天才は焦らない。
金髪赤瞳に三眼四本角という全宇宙も平伏する大魔王系ナイスガイへと変貌した俺は、額の目でそれを探す。
「見付けた」
巨穴の淵あたりで微かに揺らめく、空間のひずみ。
その輪郭は人間一人分と同程度。俺とほぼ背丈が変わらぬボーパルバニーが階層を移動する際に残された痕跡で間違いなかった。
「召喚──」
ひずみは既に半ば薄れ、いつ消え失せてもおかしくない有様。
俺は懐の
「そこだファフニール! やれ!」
〈カカッ! お安いご用だ!〉
差し渡し百メートルを優に超える翼を広げたファフニールが顎門を開き、無数の牙で埋め尽くされた口腔内へとエネルギーを集中させ始めた瞬間、俺とレアは攻撃圏内から離脱する。
瞬く間に収斂されて行く光熱。密度だけならラーズグリーズの
これが正真正銘のCランクか。そう感嘆を抱くと同時に、同ランクのクリーチャーであるボーパルバニーが俺との過去二度の接触に於いてどれだけチカラが劣化していたかを、懇々と思い知らされた。
〈──カァッ!〉
極光が奔る。これまた
そう言えばノーライフキングも光帯を放っていたな。ケルベロスも三頭それぞれの口に炎を圧縮させ、熱線を放つとレアから聞かされている。
一定以上の強さを持つガーディアン達にとって、シンプルな光熱の一点集中及び放出は基本技にして奥義なのかもしれない。
〈開いたぞ貴公! オレは未だここから先では戦えん、手を貸せぬことは口惜しいが武運を祈る! 気を付けろよ、あのウサギは油断さえ捨てれば恐ろしく強い!〉
「ああ、助かった。忠告にも礼を言っておこう」
再び、以前よりも更に大きく穿ち抜かれた孔の中心。
ノイズのような音を撒き散らし、空間そのものを破り抜いて存在する、二十一階層とは全く別の景色が広がった、腕一本分にも満たない裂け目。
俺はタイミング良く寄り添ってきたレアを抱え上げ──その先へと、縮地で跳んだ。
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