第110話 ファフニール
ダンジョン十九階層、大氷窟。
二十階層のエレベーターから降りてすぐ、俺は縮地を発動させた。
〈ひっ──〉
「今回は急ぎなんだ。泣き虫をあやしてる時間はねぇ」
稼働音に寄って来たバンシィの腹へと銃口を押し付け、発砲。
サードスキル発現によって更に性能が底上げされた魔弾は、強固な外套で護られた肉付きの良い肢体を四つに千切り飛ばし、倒れる前に息絶えさせた。
「召喚」
翳した
〈──カカッ! ようやく会えたな!〉
氷で閉ざされた空間を反響する、意外なことに見た目の印象よりも若く張りのある男声。
突き刺さるような冷気が、爪先から頭の高さまで五十メートルは下るまい、真っ当な生物であれば自重すら支え切れず押し潰れてしまうだろう超巨体に余さず纏われた、半ば炎に近い熱量の外套で払い飛ばされる。
現れ出でたCランクガーディアン、ファフニール。
典型的な西洋竜の姿を持つドラゴンは、付近を彷徨いていたクリーチャー達の気配が一斉に遠のくほどの圧倒的な存在感を放ちつつも、地に伏せるほど頭を下ろし、出来るだけ俺達と目線を合わせながら、気さくに話しかけてきた。
〈先日の戦いは見事だったぞ。そしてすまなかった。よもやあのような
「悪いが初対面の挨拶は後回しで頼む。今回ばかりは可及的速やかに事を運びたくてな」
焦らず急ぐ。心にゆとり、身体は早足。
余裕を持って振る舞うのとダラダラ過ごすのは違うのだ。
〈……どうやら予定が押してるようだな。全く、貴公を選んで世に出たと言うのに、ゆっくり話す暇も無い慌しさだ〉
「俺を選んだ……? 成程、そういうこともあるのか。ともあれ、明日以降なら交友を深める場くらいいつでも用意出来る。しかし、少なくとも今日だけは無理だ」
〈ああ、承知したとも。だが、このような階層に喚び出したのは一体どういうことだ? 貴公達なら凍土の輩程度、オレどころか他の手勢すら必要あるまい?〉
先日のボーパルバニーとの一戦を
そしてファフニールの言葉通り、召喚にここを選んだのは、戦闘の助けを得るためなどではない。
「本命の仕事に入る前の下準備として、お前に二つ聞きたいことがある。とあることを知っているか、その実行がお前に可能なのか、だ」
前置きもそこそこ、少々口早に問い掛ける。
するとファフニールは、心底愉快だとばかりに笑った。
〈カカカカカッ!! 確かにそれは急ぎだな! そして喜ぶがいい! オレなら貴公の欲する役目を果たせるぞ!〉
「うるさっ……」
氷窟が揺れるほどの大声に耳を押さえるレア。
俺も全くの同感だが、楽しそうなところに水を差すのもアレだし指摘はしない。
何より、これにて最初の運ゲー要素はクリアされた。
あと三ヶ所ほど運頼みは残っているが、ひとまずは移動を始めるとしよう。
──二度目の突入となる、二十一階層に。
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