第109話 立案






 普段俺の方から繋ぐことなどまず無いオヤジの私用携帯に連絡を入れ、話したいことがあるから時間を作って欲しいと頼んだら、すぐに迎えの車を寄越してくれた。


 そして。到着した政庁で待っていたオヤジに、先日とは全く別件の内容を話す。


 ──この閉鎖された北海道セカイの、寿命についてを。






「ッ……それは……その話は……確か、なんだな?」

「釈迦だって時には経を読み間違える。俺だけの予測なら億が一ってことも考えられなくないかもしれないが、一年前にレアとの間で一致した見解だ。定期的な観測と再計算も重ねてるが、今のところ大きなズレは一度も出ていない。寧ろ誤差程度だが


 白い塔の燃料枯渇、及びその燃料源である赤い壁の消灯について包み隠さず話した直後のオヤジと姉貴の表情は、見る見る蒼白と化して行った。


 ……こうなるのが分かり切ってたから、この二人には可能な限り伝えたくなかったんだが、事ここに至っては既に一人二人の天才だけでカタが付けられる域を超えてしまった。

 そして協力者を仰ぐとなれば、真っ先に声をかけるべきは、やはりこの二人以外居なかった。


「壁の光が消えるなんて……そんなことになったら、北海道セカイは……!」

「今度こそ終わる。もう立て直す手段は残されてない。ダンジョンのエレベーターだって停まっちまうだろうから、白い塔の登頂っていう最後の望みも消え失せる。今の段階がもう既に、血の池へと蜘蛛の糸が垂らされてる瀬戸際ってワケだ」

「シドウ、貴方なんでもっと早く──いいえ……聞かされていた、ところで……くッ」

「そうとも、どうにもならなかった。何故なら俺とレアがダンジョン入りすることがに不可能だったからだ」


 モノリスもエレベーターも、十八歳未満の人間では起動させられない。

 お世辞にも探索者人口が足りているとは言い難い協会が、それでも年齢下限を引き下げることが絶対に出来ない理由。


「俺とレア抜きで白い塔を登頂するのは絶対に無理だ。元々この一年が、最初で最後のチャンスなのさ」

「……だろうな。全く、出来の良い息子を持ったことを後悔する日が来るとは……それと霧伊女史。息子と連名での情報提供及び全面的な協力、心より感謝する」

「ええ」


 オヤジからの礼に対し、淡々と首肯を返すレア。

 最近だとサードスキルを発現させた直後の時のように、よほど機嫌が良くなければ基本コイツは俺以外と最低限しか口を利こうとしない。


「それで、お前のことだ。ただ壁と塔の件を話しに来たワケではないのだろう」

「ああ。ひとつ頼みがある」


 俺がオヤジに頼み事など、一体何年振りになるだろう。初めてかもしれない。

 向こうも同じ心境だったらしく、意外そうに目を細めた後、言ってみろと返された。


「半日、いや六時間で構わねぇ。Cランク召喚符カードを一枚──そうだな、ファフニールをもう一度貸してくれ」





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