第107話 天才ゆえの妥当な驕り
「ここのモールも最近は随分と盛り返してきたよな。一時期はテナント全店撤退で、丸ごと空っぽになっちまってたってのに」
「そうね」
レアを連れて訪れたのは、札幌駅直結の地下街にあるショッピングモール。
昔、オフクロに競馬場へと連れて来て貰った帰りは、よくここで買い物をした。当時七つ八つだった俺に予想させた当たり馬券の配当金で。
字面だけ見ると、とんでもない親だな。ああもアホだと逆に一種の敬意すら湧く。
「……悪かったな」
「────!?」
そんなセンチメンタルに浸りながら、俺はアイス片手、レアに頭を下げる。
角度的には五度くらい。これ以上は無理、今ですら本能的に舌噛みちぎりそう。
そして、俺が他人に絶対頭を下げないことを知ってるレアの仰天ぶりは、少し笑えた。
そうかそうか。お前の中の俺はそこまで傍若無人か。出るとこ出るぞこの野郎。
「お前が他人を疎んでいるなんて、わざわざ聞くまでもない話なのによ。俺の我儘に付き合わせた。居てくれるだけで随分助かるからな。正直言って甘えてた」
ほぼ全人類、猿扱いは流石にどうかと思うが。
けれど、同時に──決して気持ちが分からないワケでもない。
「俺はエイハのように、他人を能力よりも心根で評価する。だが、それはつまり俺に相当する個人的能力なんざ最初から期待していないどころか、足元にも及ぶワケが無いと驕った考え方の裏返しだ。エイハにも、オヤジにも、姉貴にも、
お前以外はな、と語末に沿える。
「傲慢。以前ラーズグリーズもそんな風に俺を見定めた。その通りだ。俺は自分の存在を微塵も疑わず頂点に据えているが、だからこそ、お前以外の全人類を等しく見下してる」
老若男女問わずの幼子扱い。
それはレアの猿扱いと、一体いかほどの差があるだろうか。
「……貴方は違うわ。現にエイハやアウラさんのことを天才と認めてるじゃない」
「俺の言う俺自身とお前以外の天才とは、つまるところ『花で飾られた稚児』だよ。じゃなけりゃ一ツ星だ、二ツ星だと上から目線で勝手に位階を決められるものか」
「実際、上でしょう」
「あくまで個人の能力は、な。あと顔とスタイル。ついでに目には見えない幸運とか、他にも色々……」
おっと脱線。
「……だが、あまりにも個として突出し過ぎているからこそ、集団を纏め上げることは出来ない。他人と足並みを揃えられない
お互い友達が一人も居ないのだって、それが原因。
…………。
故にこそ。
「だからこそ俺は人が、特定の個人ではなく人間という種そのものが好きなんだ。才にも能にも乏しいがゆえに寄せ集まって、手を取り合ったりいがみ合ったりしながら社会の一員として生きている彼等彼女等のため、時に少々骨を折っても構わないくらいには。それでだろうな、人間に敵対するクリーチャー達に欠片も情が湧かないのは。バイコーンだけはアレだが」
きっとそこが、そこだけが、俺とレアの唯一にして最大の違い。
「──何より、今の
食べ終えたアイスのコーンに巻かれていた紙を、握り潰す。
「よって申し訳ないが、お前と退廃生活を送ることは出来ない。どんなに確率が低くとも、まだ人類に存続の目が残ってるうちはな」
と言うか今になって、正確には先程誘惑された時、コイツと付き合うことに対する悍ましさを感じてた理由がようやく分かった。
もし一緒になったら絶対お互い堕落するって、本能的に勘付いてたからだ。
「ただ、まあ、これ以上お前に無理強いも出来ねぇ。いくら俺に並ぶ天才でも、いや俺に並ぶ天才だからこそ、現状の詰み具合も
コーヒー買ってくる、とベンチを立つ。
けれど、その場を離れるよりも先──レアの指先が、俺の上着の裾を摘んだ。
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