第101話 プランB
〈キャハッ、アハハハハッ! 困ったねぇ、困ったねぇ、困ったねぇ! そいつらが居ればワタシに勝てたかも知れないのにねぇ!〉
震えるばかりで何も出来ない
奴からの暴露を叩き付けられた姉貴は顔色を失い、
…………。
よし分かった。ならプランBで行こう。
最も成功率の高いプランAは始める前から潰されたが、複数の作戦を抱えておくなど至極当然の備え。
ただしプランBは奇襲前提の超短期決戦。しかも相手が油断しまくってる上、俺達の能力を知らない序盤戦に限られた手札。やると決めたら即動こう。
都合良く峡谷の下に留まってくれていることだし、三番分岐が使えるな。
「
俺がここだと思ったタイミングで、レアが
白く照り返す髪、金色の
変貌したその姿を見たボーパルバニーが、ギョッと一瞬たじろいだ。
〈え、ウソ。ピンクちゃん達の他にも、ソレ使える奴が──〉
初見の、それも固定観念を打ち崩す光景。
何より、ボーパルバニーは俺達を完全に舐めてかかってる。ありがたいことに。
だからこそ、簡単に隙が生まれた。
「一刺確殺。一投鏖殺」
片翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がったレアが、投げ放つ。
「 塵 と 化 せ 」
サードスキル発現により性能が底上げされ、サードスキル発動により効力が跳ね上がった魔槍と豪力のチカラを最大限に発揮させた、小隕石の墜落にも等しい一撃を。
〈へ? ──ひィッ!?〉
初めて、ボーパルバニーが悲鳴を上げた。
初めて、両手で骨刀を握った。
〈あぐっあ……ちょ、なにコレ、やっばぁ……!!〉
だがしかし、最強とは心技体揃ってこそ。
その最強である俺のライバルを自称するレアならば、瞬間的に格差を埋める程度、やってのけて当然だ。
〈こんっ……のォッ!!〉
衝突の末、敗れたのは……レアの槍。
今までの比ではない出力を擁する魔槍のオーラを纏わされ、今までの非ではない豪力の膂力を力流動で適材適所へと回した上での一投は、到底量産品の模造槍に耐えられる領域の運動エネルギーではなかった模様。
「あーあ。新しいの買わなくちゃ」
「壊れたら愛着も一緒に失せる仕様なのな──
欠片も残さず槍が砕け散り、衝撃波も掻き消え、打ち勝ったとボーパルバニーが息をついた一瞬、俺もまた
〈ぅあぐっ!? こ、この、はな、離せバカぁっ!〉
じたばたと暴れ、抜け出そうとするボーパルバニーだが、レアの投げ槍を受け止めた直後で手足が緩んで、片腕しか無い俺の拘束からも抜け出せない。
──やはり睨んだ通り、コイツの弱点はCランククリーチャーとしては小柄過ぎるが故のスタミナの無さ。
異常に高密度な外套の強度こそ恐らく同ランク帯でも随一だし身体能力も滅茶苦茶な領域だが、そいつを振るうための燃料、肉体そのものに溜め込めるエネルギーの総量は低いんだ。ネズミみたいな運動能力の高い小動物は常に餌を食い続けなければ一日足らずで餓死するのと似たような理屈だな。
今までコイツに挑んだ探索者の数人が飽きて見逃されたのも、疲労から来る飽きだったに違いない。
てか、誰が馬鹿だ。
「馬鹿はお前だよ。Cランクガーディアンが封じられたくらいでお手上げになるとでも思ったのか?」
こちとら一年前に赤い壁の消灯を予期した時から、どうやって白い塔を踏破するか、毎日寝る前の五分間で考え続けていたんだぞ。
流石に召喚制限なんてものは予想外だったが、有力なガーディアン達が使用不能になったケースくらい想定済みだ。
「ラーズグリーズ! やれ!」
「『オーバーロード』開始」
四枚翼の過剰出力形態へと移行し、空中に居たままのレアと同じ高度まで至るラーズグリーズ。
そこでようやく我に返った姉貴が、泡を食ったように叫んだ。
「シドウ!? 貴方まさか、自分ごと!? やめなさい! やめてぇっ!!」
いつものクールぶった調子はどこへやら、半狂乱で崖から飛び降りようとする姉貴。
それを間際で、
「離して、離しなさい周防っ!! いや、いやぁ、シドウッッ!!」
ナイスフォロー、絶対に姉貴を離すなよ
もしこっちに来させて姉貴が死んだら、その時は俺がてめぇを殺すからな。
〈風の冬、剣の冬、狼の冬。外れる足枷、吹き飛ぶ戒め。星々は天より堕ち、あらゆる命が巻き込まれ、あらゆる命が消え失せる〉
「なんか前と口上が違わねぇか?」
〈レア演出です〉
「呼んだ?」
〈いえ別に〉
この期に及んで、なんて緊張感の無い奴等だ。
余裕があって大変結構。頼もしいぜ。
〈ひっ、あ、アレは……離せぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!〉
一方、あの一撃を前にも見ているボーパルバニーは、いよいよ発狂し始めた。
鬱陶しいから首を噛んでおこう。ちょうど歯も全部牙になってるし。
〈ひぐっ……ううう、ううううううううっ!!〉
想像よりも遥かに高い効果を発揮し、一気に抵抗が弱くなる。
──さあ、花火の時間だ。
〈『
杖槍の先端部に噴き上がる熱量の全てが収斂し、撃ち放たれる刹那の極光。
全てを焼き払う光熱の柱が、コンマ一秒間、逃げ場の無い峡谷内へと降り注いだ。
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