第100話 誤算






 俺達四人は、それぞれが協会から一枚ずつCランク召喚符カードを借り受けた。


 俺は不死身の毒竜、ファフニールを。

 レアは太陽神の遣い、八咫烏を。

 姉貴は哺乳類の頂点に立つ瑞獣、麒麟を。

 周防オッサンは怪力無双の火精霊、イフリートを。


 今し方のひと当て。確信を得るには十分な情報量だった。あんまり天才なものだから。


 まず結論。現状、俺達だけでボーパルバニーに勝利することは、ほぼほぼ無理に近い。

 大きさに多少の違いこそあれ、等しく路傍の石に過ぎなかったDランク以下のクリーチャー達とは、まさしく次元が違う。


 だがしかし、いかに奴が真性の怪物だろうと、こっちにはそれと同格以上のガーディアンが四体。

 数字の多寡のみで決まる不等号のように単純な話ではないにしろ、普通に考えれば負ける余地など無い。


 ──その筈、だった。






「なんだ……?」


 俺の手中で激しく震えるファフニールの召喚符カード

 見ればレア達の方も似たような光景。どう考えても様子がおかしい。


 これでは、まるで──ガーディアン達が召喚符カードから出られず、暴れ狂っているみたいではないか。


〈んー? んんー? ねーねーアナタ達、何やってるー?〉


 崖の上から己の四方で呆然、困惑する俺達の姿をぐるりと見渡し、追撃を図るでも無く、そんな風に問いかけてくるボーパルバニー。

 およそ敵に対する振る舞いではない。現状こちらのことなど、巣の中へと転がり込んだオモチャくらいにしか思っていないかのような、事実そうなのだろう態度。


〈……あれ? あれれ〜、おっかピーポー? もしかして知らない? 無知キング?〉


 やがて視線が俺達の持つ、裏面に五角形の模様を刻んだ召喚符カードへと向かう。


〈知らないの? 知らないの? 知らないのったら知らないの?〉


 疑問符を飛ばす度に首を左右へと傾け、にやにやと小馬鹿にした薄ら笑いを湛える。


〈──、知らないの〜?〉


 そして。俺達が聞いたことの無い単語を、言い放った。


〈Cランク以上のクリーチャーは、同じ階層にはしか居られないんだよ〜? やだ〜、信じられな〜い。そんなことも知らないのが許されるのは小学生までだよね〜〉


 嘲笑を含んだ語調で続くボーパルバニーの語りに、俺はラーズグリーズの方を見るも、知らぬ存ぜぬとばかりに首を横に振られる。

 当然だろう。もし知っていたなら先んじて伝えておかない理由など無い。


 が──はたと何かに気付いたように、金色の瞳が見開かれた。


〈……シドウ様。私が与えられた知識の中には、二十五階層の到達報酬に関する情報も存在しております。生憎と名称だけで、内容については一切不明ですが〉


 険しい表情で、ラーズグリーズが言葉を続ける。


〈『』……なんのことやら見当もつかず、報告を差し控えておりました〉

「そうか。気にするな、その判断は間違っていない」


 具体的な内容も分からず伝えられたところで、四方八方へと考察の風呂敷を広げる羽目になっただけだ。


 だがしかし、今は違う。繋がった。


 長く協会にとって最有力な情報源であり続けたCランクガーディアンの麒麟から聞かされていた、二十一階層から二十四階層には一匹ずつしかクリーチャーが居ないという話。

 二十一階層以降に同時存在可能なCランク以上のクリーチャーは階層毎に一個体のみであるという、虚言や詐術に長けているとは到底思えないボーパルバニーからの暴露。

 そこに加わった最新情報。二十五階層の到達報酬ごほうび、制限解除。


 これらが意味するところは、つまり。


「飛車角香桂落ちでやれってか……マジかよオイ」


 四体のCランクガーディアンで叩くという俺達の作戦は、想像だにしなかった形で、ハナっから瓦解させられてたってことだ。





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