第97話 一抹の






「仮に今これが停まったら、俺達はCランク召喚符カード全種を抱えたまま、全員酸欠で死ぬワケだが」

「嫌なこと言わないでくれるかしらシドウ君。絶対あり得ないとは断言出来ないんだし」

「もしそうなったら、後世のいい笑い者じゃない」

「……生きてて良かった……ッ」


 まずは二十階層へとエレベーターで向かう道中、ウィットに富んだジョークで場を和ませる。

 しかし狭い。四人中二人が体格の良い男、しかも槍と剣と馬鹿でかい対物ライフルまで詰め込まれた状態。少し動くだけで誰かとぶつかる。数分の我慢とは言え、ちょっとだけツラい。


 それと周防オッサン、姉貴の髪を嗅ぐのはやめろ。流石に気持ち悪くて引く。

 まあ姉貴の方も気付いてて特に何も言ってないから、俺も敢えて指摘はすまいが。






 先々週あたりに足を運んだばかりの二十階層。

 あの地獄みたいな寒中行軍は忘れん。


「そういや周防オッサンには礼を言っとかないとな。あの時アンタが付与をかけてくれたお陰で凍えずに済んだ」


 事と次第によっちゃ、レアと抱き合って暖を取りながら進む羽目になってたところだ。

 想像するに悍ましい。


「……そもそも、あの程度の防寒装備で土曜に挑むなど……自殺行為だ」

「後で確認したら、あれ一番気温が高い火曜日用の一式だったのよね。土曜日用はあの上からもう一枚重ねておく必要があったみたい」

「マジか」


 まあ、どっちにしろアレ以上の重ね着は、動きが悪くなり過ぎてた。

 そもそも可動域を優先して選んだやつだったし。






「こいつに乗り込めば、いよいよ二十一階層だ」


 上行きのエレベーターの扉を、コツコツと叩く。


「向こうの環境を考えれば、外に出て三分、ややもすりゃ即時戦闘に入る」


 何度もシミュレートした流れを、一応さらっておく。


「まずは到着と同時にガーディアンを展開。最初にCランク、次にD+ランク」


 俺達全員が個人所有する召喚符カードは合計十四枚だが、うち半分はEランク以下であるため、一応この場に持って来てはいるものの完全な戦力外。

 残り七枚は全てD+。内訳は俺とレアが一枚、周防オッサンが二枚、姉貴が三枚。

 ついでに言えば残り六枚のうち四枚も姉貴の所有するガーディアン。黎明期からダンジョンに潜ってた超古株よりラインナップが充実してるとか、代理政府の官僚サマはコネクションが違う。


深化トリガーの発動タイミングは各々に任せる。使う機会があればの話だが」


 この上に居るCランククリーチャーはのみ。

 対してこちらは、強さの上では同ランクのクリーチャーを凌ぐCランクガーディアン四体。局所的にはCランク級の攻撃力を発揮可能なD+ランク六体。そしてサードスキル発現者が四人。


 これだけの布陣なら、普通に考えれば敗れる要素は無い。筈。


 ──本当にか?


「んー」


 俺は天才なので、直感にかけても天才だ。

 そいつが微かに警鐘を鳴らしてる。気を付けろ、と。


「シドウ? 何か気になることでも?」

「……いーや。ま、ボチボチ気合い入れて行こうぜ。遠足気分は流石に二十階層ここで終いだ」


 俺と同様にレアの奴も思案顔だが、ここで顔を突き合わせて悩んだところで得るものは無い。

 余裕と無駄な浪費は違うのだ。下で待ってるエイハやオヤジを待ちくたびれさせるのもしのびないし、取り敢えず先に進もうじゃないか。





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