第95話 苦行の果てに






「レア。お前しばらくパフェ禁止な」


 そう宣告した時のレアの顔は、ウルティなんちゃらを持ち替えろと言った時の周防オッサンよりも数倍酷かった。


 で、まあ、アイツがそんなもん耐えられるワケないってのは自明の理だったんで、いつの間にか居なくなってることを確認してから億疋屋まで来てみれば。


「ふーっ、ふーっ」


 何故だか、うどんを食ってた。


 なんだこれ。どういう代償行動? そもフルーツパーラーに置いてあるようなメニューなのか? どこだよフルーツ要素。

 そしてこの光景を見た俺はどんな反応すればいいんだ? うどん野郎ーっとか言ってブン殴ればいいのか? いくら俺が天才でも嫌なんだが、そんなワケ分からんキレ方。


「……なに、シドウ君。見世物じゃないわよ」

「いっそ見世物であれよ」


 どう考えても突っ込み待ちだろうが。

 でも一応、パフェを食わずに我慢してる点は評価する。意味不明だけど。






「あー。取り敢えず一日かけて減量に励んだ途中経過だが」


 まず俺、変動無し。パーフェクトボディ過ぎて削れる余地が一切残ってない。

 姉貴、二百グラム減。誤差だな。第一、体格や骨格を考えると今が概ね理想値。下手に削れば戦力ダウン。

 レア、百グラム増。そりゃ増えるわ。そしてコイツも体型のバランスが整い過ぎてて迂闊に手をつけられない。普段甘いもんばっか食ってるくせに。


 最後に周防オッサン。五百グラム減。やっぱり誤差。


 …………。

 うん。無理。天才にも不可能はある。


「体力や健康面を維持したまま五キロ削ぐとなると最低でも一ヶ月は必要だ。それに周防オッサンは年齢的に代謝も落ち始めてる。一応やってはみたが、元より現実的なプランではなかった」


 こうなると二度に分けてエレベーターを使うという手段も視野に入れざるを得ない。

 だがしかし、二十一階層の特殊な環境を鑑みれば、やはりこの手は避けたい。

 エレベーターの一往復にかかる時間は一律で約十分。十分間も分断を受ければ、いかに一人一枚ずつCランク召喚符カードを所有していようと敵側も同ランクである以上どうしたってリスキー。


 いっそ先行組に召喚符カードを四枚全部持たせるべきか。

 いやしかし、天才かつ最強のナイスガイな俺とそのライバル(自称)たるレアの全宇宙一位二位が欠けていたとは言え、深化トリガー持ちの姉貴と周防オッサンの二人がかりでも有効打すら与えられなかったボーパルバニー相手に、そんな片手落ちな──


「ン? ?」


 思考を切り、己の左腕を見遣る。

 骨格が左右完全対称ゆえ均整が崩れると気分的に落ち着かないため、実際の腕の重さと合わせてある義手を。


 そして先程に挙げた俺の体重は、この義手込みの数字。

 そしてそして腕一本の重さは、概ね体重の六パーセントか七パーセントあたり。


「ふむ」


 義手を外し、体重計の上に置く。

 きっかり五キロだった。


「──よし解決。総員ご苦労さん、それじゃ解散ってことで。当日はよろしく」

「「「…………」」」


 やはり気が急くと視野が狭まるな。こんな簡単なことを見落としていたとは。

 ゆとりと余裕の無い人間には何ひとつ成し遂げられん。改めて再認識したよ。






 全員から一発ずつ殴られた。

 今回は多少なり非を感じたし、でも頭は下げたくないから甘んじて受けた。


 しかし、顔に青アザを作った俺もナイスガイだ。

 後日たまたま顔を合わせたエイハがひどく動転して、事情を話すついで、その日の分の治癒を使わせてしまったが。





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