第94話 減量






「オッサン。アンタには二つの選択肢がある」

「あ、ああ」


 周防オッサンの前で二本指を立て、一本ずつ折り曲げながら、俺は告げた。


「まずは、そのデカブツを軽い銃に持ち替える」


 そう言った瞬間、周防オッサンの表情が絶望に沈む。


 元自衛官なら陸自の正式装備でも使っとけと言いたいところだが、こいつは最後の手段だ。

 何せファーストスキルの発動媒体は、そのアイテムに思い入れがあるとスキルの出力が増すことが立証されてるからな。

 俺の魔弾がセカンドスキル発現前からEランククリーチャーを屠れる威力があったのも、ひと目惚れしたピースメーカーの恩恵が大きいのだろう。天才は使う物にこだわるんだ。


 なので、このタイミングで周防オッサンの武器を取り替えるのは愚策。

 よって本命の案は、今から言う二つ目。


「或いは──あと三日で、俺達全員合わせて五キロ以上痩せる」


 さあ、地獄の行進の始まりだぜ。






「う、うぅ……もう駄目だ……」


 バタリと周防オッサンが倒れたため、俺は脇腹にスタンガンを当てた。

 それでも元レンジャーか、情けない。


「あばばばばばばばばっ!?」

「立て。あとたった半分、百五十周だろうが」

「い、一周……四百メートル……あるんだが……しかも、銃を背負って、一周八十秒以内とは……」


 黙れ。減量を選んだのは貴様だ。


 最初に四人全員とは言ったが、レアも姉貴も削れる肉など殆ど無い。

 俺に至っては体脂肪率四パーだぞ。どうしろってんだ。


「ガチムチなアンタが一番重いし、まだなんとか削れる余地のある体型だ。だが絶食や水抜きで重量を減らしたところでスタミナが激減して戦力にならん。徹底的な有酸素運動で消費するしかない」


 そうした方向性の下、三日で五キロ減となると、生半可な運動量では到底達成不可能。

 走って走って走りまくるべし。


「本当は水泳が最適なんだが、元陸自だったら走る方が得意だろう? まあ変更を希望するなら、銃の代わりにダンベル括り付けて石狩川に突き落としても構わないが」

「鬼か……!?」


 よし、ここらで経過観察と行こう。

 減量分を正確に量るため、十分に水分を与えてから体重計に乗せる。


「……チッ、このペースじゃ絶対間に合わん。そもそも脚が疲労骨折しちまう」


 やむを得ない。プランBだ。


「姉貴。ちょっと」


 なまった身体を整えるべくストレッチに励んでいた姉貴を呼ぶ。

 そして財布から万札を抜き取って渡し、少し先に見える城のような建物を指差した。


「今から周防オッサンと二人であそこに行って、数キロ搾り取って来て欲しいんだが」


 フルスイングで殴られた。

 鈍臭の姉貴からマジビンタ食らうとか、一体何年ぶりだろう。初めてかもしれん。


 …………。

 まあ、避けなかっただけなんだが。

 自分で言っといて、今のは流石にデリカシー云々以前の問題だと思ったし。





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