第93話 オーバー






 ダンジョンのエレベーターには、二百八十キロという結構厳しい重量制限が備わっている。


 一般に一チームの上限数と見なされる四人組で換算するなら、一人頭装備品込みでの許容リソースは七十キロ。

 とは言え、帰りは十キロ単位でコインを持ち帰ることを鑑みれば、実際には平均六十五くらいが上限の数字だろう。


 故に探索者の四人チームは基本的に男女混合だ。男だけで制限内に収めるのは少々キツいし、女性だけだとコインの運搬能力に難が出やすい。


 まあ、その辺のチーム編成事情は置いといて、今は俺達四人の合計体重だ。


 まず俺が一九〇センチ、七十四キロ。

 レアが一七五センチ、五十六キロ。

 姉貴が一六五センチ、五十キロ。

 そして周防オッサンが一八二センチ、九十キロ。

 合計二百七十キロ。割とギリ。


 更に問題なのはここからで、それぞれの


 Cランクガーディアンによる情報曰く、二十一階層以降は環境が極めて特殊でため、下層のように水や食料を持ち込まず済むらしい。

 更に俺達はコインを拾って帰る必要も無い。重量計算は純粋に装備品のみで行う。


 衣服に関しちゃ大したことは無い。周防オッサンが陸自時代の習性でガチャガチャ身に付けたがるが、どうせ通常の防具など濡れティッシュ並みの役にも立たんから軽装に切り替えさせる手筈。


 しかし、武器はそうも行かない。


 俺のモデルガン、シングルアクションアーミーは約一キロ。

 姉貴の処刑人の剣エクセキューショナーズソードとレアの十字槍は、それぞれ概ね二キロ。


 で、やっぱり問題なのが周防オッサンの得物。


 ヘカートⅡ。或いはPGMヘカートⅡ。

 ただし周防オッサンの前では『ウルティマ・ラティオ・ヘカートⅡ』と長ったらしい名で呼ばなければ面倒臭いことになるため、留意されたし。


 全長一四〇センチメートル弱と、小学校中学年の平均身長に匹敵するフランス製のボルトアクション対物ライフル。

 実銃の有効射程距離は二キロメートル近くあり、主な運用方法は阻止攻撃とカウンター狙撃。射程の長さから不発弾処理にも使われるとか。


 他にも普段の覇気に乏しい態度はどこへやら、滅茶苦茶な勢いで周防オッサンがカタログスペックだの逸話だのを語り始めたんだが、近代以降の銃には全く興味無いから聞いてなかった。

 あと多分、銃に『アウラ』って名前付けてる。ちょっとキモい。


 ……諸々置いといて、ウルティマ・ラティオ・ヘカートⅡの重量はと言えば、スコープ装着で十五キロ前後。

 勿論周防オッサンのはモデルガンな上に各パーツへと軽量化改造を施してあるため、そこまでではないが……計量の結果、ほぼ十キロ。


 つまり俺達四人と装備一式全部合わせて、甘く見積もっても二百八十五キログラム。

 余裕の五キロオーバーってワケだ。





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