第85話 招聘
レアと二人揃ってオヤジから呼び出しを受けたのは、金曜の放課後のことだった。
学校前まで来た迎えの車に乗せられ、向かった先は代理政府の政庁。
代表執務室と書かれたプレート付きの大仰な扉の前まで到着した俺達は、一応の礼儀としてノックを行う。
が、返事は無い。
中で気配はするから、居るのは確かな筈なんだが。
〔父さん。シドウ達が来たわよ〕
〔ま、待て、ネクタイが決まらん……ええい、こんな時に限って……!〕
〔何をそんなに緊張してるのよ。レアちゃんの話ならシドウから何度も聞いてるでしょ〕
〔だからこそだ。アイツの口から他人の、それも同年代の女の子の名前が出て来るなど……もしかしたら将来、義娘になるかもしれない相手とのファーストコンタクトは、下らん会議などより余程に重要──〕
何喋ってるかまでは流石に聞こえねぇけど、居るならさっさと通しやがれハゲオヤジ。
〔私はハゲてない!〕
〔どうしたのよ急に〕
「よく来てくれた」
横に姉貴を控えさせ、プレジデントデスクに腰掛けたオヤジが、重々しく告げる。
「雑賀シドウ、並びに霧伊レア。今回の招聘に応じてくれたこと、まずは感謝する」
どうでもいいが、別に人目があるワケでもないのに、なんでこんな堅苦しい感じで進めようとしてるんだろうか。
「……初めてアウラさんに会った時も思ったけど、あまり似てないのね」
「オヤジが俺そっくりだったら、とっくに地球生物は絶滅に陥ってるだろ。太陽が二つになったら海が蒸発しちまう」
長ったらしい前置きがしばらく続いたため、視線だけ正面へと固定したままレアと話し、時間を潰す。
やがて無駄な応酬だと感じたらしい姉貴がオヤジの脇腹に肘鉄をかまし、軌道修正と相なった。
「……前もって伝えておいた例の件だが、想定よりも早く纏まりそうだ」
「へぇ。そいつぁ良かった」
臨時政府を挙げての、二十一階層以降への進出計画。
それが無事、可決に傾きつつあると聞いた俺は、僅かに口の端を持ち上げ、レアと目を合わせる。
「最悪、俺とお前の二人だけで、とも考えてたが、そうならず済みそうだな」
「助かったわ。出来る出来ないは兎も角、いくらなんでも面倒だもの」
今になって思えば、俺がモノリスから
この流れへと行き着く最後のピースが、よりにもよって俺の手に滑り込むなど笑える話だ。
まあ、そのせいで二週間もガーディアンを手に入れられず、無駄な足踏みをさせられたことに関しては、やはり不幸だったが。
「月末には案が通る。月が明けたら、実行に移せる」
ちょうど来週くらいからか。
早過ぎず遅過ぎずの、悪くないペースだ。
「だが、何もかも順調とは行かないらしい」
と。そこでオヤジが一旦言葉を断ち、ゆっくりと息を吐き出す。
まるで、溜息を堪えるかのように。
「……ひとつ、別の問題が出て来た」
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