第84話 歩む速さは違えども
俺達が二十階層到達に臨んだ週末、時を同じくしてノーライフキングをD+ランクに進化させるべく再度十一階層へと突入していたエイハ。
今日は彼女の帰還予定だったので、放課後に一人、協会まで足を運ぶ。
「──シドウ! 出迎えに来てくれたの?」
「ああ。どうせ平日は学校以外暇だからな」
十階層に繋がるエレベーターから降りてすぐ俺の姿を見付け、ぱあっと華やがせた笑顔と共に歩み寄って来るエイハ。
十五階層で
道中に危険は無く、一階に戻る直前でシャワーを浴びる余裕さえあった証左。
尤もDランク、復路に至ってはD+ランクのガーディアンを伴っていれば、十一階層から十五階層への道のりなど散歩道に等しいだろうが。
「本当に特級の許可証だ……」
真新しい、と言うか登録を済ませて以降ほぼ毎週のように新規発行され続けていた俺の危険区域活動許可証を見つめたエイハが、呆然と呟く。
至極当然の結果ではあるも、讃えたいなら好きなだけ讃えるがいい。
「……凄いね、キミもレアも。ちょっとは追いつけたかもって、そう思ったんだけど」
どこか自嘲気味に力無く笑い、呟きを落とすエイハ。
そういう称賛のされ方は好きじゃない。俺に向けられる感情は羨望一色であるべきだ。
他人の劣等感とか飯が不味くなる。パーフェクトな俺と俺以外の人類を比較したって仕方ないだろうに。
「歩みの速さは人それぞれ。お前にはお前の最適な速度がある。それに先週は俺達に着いてくる側だったお前が、今回は知人を守りながら同じ道を先導した。確実に進歩してる」
「でも、今のままじゃいつまで経ってもキミの役に……」
「天才は焦らない。例えそれが一ツ星であってもだ。余裕とゆとりを持たない人間には、何ひとつ成し遂げられない」
何より。
「俺はお前を買ってるんだぜ、エイハ。他人に無償の慈愛を向けることの出来る、お前みたいな気高い奴が、俺は好きだ」
「ッ……ありが、とう。王子様にそう言って貰えると……どんなことより、嬉しいよ」
そう言って頬を赤らめさせつつ浮かばせた今度の笑みは、一片の翳りも無いものだった。
わはははは、光栄に思うがいい。
エイハから道中の話や取り止めのない雑談を交わす最中、やがて当然の流れと言うべきか、話題はサードスキルに関するものへと移った。
「良かったら、見せて欲しいな」
「勿論だとも」
先日、学校でクラスメイト達に乞われた時とは違い、ここは白い塔の中。
念のため訓練施設に場所を移してから、いざ
「じゅうにん……十人は産みます……産ませて下さい……」
能力に最適化された俺の姿を見るや否や、エイハは足元に崩れ落ち、うわごとのような台詞を繰り返し始めた。
どうやら刺激が強過ぎたらしい。
生物としての位階が上がるってのは、もしかすると天才の俺が想像する以上に大ごとなのかも知れない。
やはり濫用は危険だ。予め隠しておかなければ、鏡からも離れられなくなるし。
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