第79話 二十階層






 九時間五十六分四十八秒。


 多少の誤差はあれど、往路十時間という試算に概ね合致したタイム。

 我ながら素晴らしい計算能力と予測能力。遠からず未来予知に目覚めたって不思議ではない。

 流石天才。略して、さす天。


「ここが二十階層か。まあ、やっぱり他の安全地帯と大して変わらんのな」


 敢えて異なる点を挙げるとするなら、五階層と同様に協会が後付けで施した無人販売所やカプセルベッド、シャワーブースなんかが備わってないってところか。

 五階層の場合はエレベーター無しでも一時間足らずで一階まで戻れる立地が理由だが、ここの場合はわざわざ来る奴も、商品補充や清掃に来られる人材もごく限られるためだろう。確か特級探索者姉貴たちと、一級探索者の中でも一割以下の奴等だけだった筈。


「ちっ」


 舌打ちの音に振り返ると、レアが一階行きエレベーターの開閉スイッチを十六連射してた。

 気持ちは分かるが、物凄く分かるが、エレベーターのアンロックは一階でなければ出来ない仕様だ。


 いや。D+ランクへの進化のように、もしかしたら何か別の操作方法があるのかもしれんが、少なくともCランクまで全種出揃ったガーディアン達のいずれもが認知していない情報だ。

 二種のうち現状唯一モノリスから排出され、人類の手に渡っているBランクガーディアンのバハムートが厳重封印されている以上、俺達に方法の有無を知る手段は無い。


 つーか、さっさと使えばいいのにな。そうすりゃ今頃、二十五階層あたりに進出できてた筈。

 オヤジも姉貴も同意見ではあるんだが、デリケートな問題過ぎて迂闊に議題にすら挙げられないらしい。






 取り敢えず最後のスポーツドリンクで水分補給し、適う範囲で身清めを済ませ、台座の前に立つ。


「俺としたことが存外手間取ったな」


 先週末に十五階層到達、一級に昇級。

 先々週末に十階層到達、二級に昇級。

 で、協会登録を済ませたのが十八歳の誕生日翌日の土曜。四週間前。

 平日はちゃんと学校に行けと姉貴がうるさいもんで、週末と祝日にしかダンジョンに入れなかったからな。マジで時間を食った。


「まあいいさ。天才は焦らない。常にゆとりと余裕を掲げてこそだ」

「早くしてくれないかしら。私、すぐにでも帰ってお風呂に入りたいのだけど」


 既にレアからせっつかれる。

 本当に気が合わん。そうやってセカセカしてるうちは永遠に四.八ツ星だぞ。


 でもまあ、さっさと帰って熱い湯船に浸かりたいのは俺も同意見。

 あまり勿体つけても仕方なしと肩をすくめ、台座表面の手型に右掌を重ねた。


 刹那の空白の後、輝きを帯びる手の甲のスキルスロット。

 数秒を経て眩光が収まると、ファーストスキルやセカンドスキルを発現させた時と同様、少し形が変わった紋様。


「サードスキル獲得。これでようやくスタート地点か」

「早く行きましょうシドウ君」


 レアが早々とエレベーターに乗り込み、急かしてくる。

 全く以て慌ただしい。





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