第78話 有効的かつ悪辣な攻略法
いつでもピースメーカーを抜けるよう、ホルスターの留め具だけ外す。
そして。茶会中のバンシィ達が囲む長テーブルの上へと跳び、天板に足を組んで腰掛けた。
「よぉ、お嬢さん方」
いかに人間に対する敵対存在であるクリーチャーだろうと、このように文化的な生活を送るほどの知能と社会性を有した種族なら、唐突に現れた上に敵意も見せない者へと反射的に攻撃などしない。
実際、俺を見る四匹のバンシィ達の顔色に浮かび上がる感情は、ひとまず驚きと困惑がミックスされたものだった。
──さて、どいつがいいかな。
バンシィは個体毎に顔立ちや髪型などが異なる。衣服や装飾品も黒一色で統一されていること以外は割とデザインバリエーションに富む、と資料に書かれてた。
そのため、どうせならと思い、四匹それぞれの顔立ちや雰囲気を検める。
──あいつにしよう。雰囲気が気に入った。
標的と定めたのは、短めの黒髪をしたマニッシュな個体。
バンシィ達が正気を取り戻し、攻撃の兆候を見せる前に、再度縮地で移動する。
全力疾走と同等の慣性をブーツのグリップで踏み締めて押さえ付け、まだ頭が回っていないバンシィの頬を撫で──間髪容れず、唇を重ねた。
〈ッ!! ッッ!?〉
相手が目を白黒させる中、俺は咄嗟に閉じようとした顎を押さえ、歯を舌でこじ開け、向こうの舌を絡め取り、愛撫する。
氷みたく冷たい。飲んでた茶の味か、少し苦い。人間とは味覚が違う模様。
〈ッ──ッ……ん、んんっ〉
バンシィは暫し固まっていたが、やがて本能的にか舌を絡め返し、両腕を俺の背中へと回してくる。
それと入れ替わる形で、こっちはホルスターから覗くモデルガンのグリップに手をかけた。
──よし。他も食い付いてきたな。
この状況にワケも分からぬまま、誘蛾灯へと引き寄せられるかのように近付いて来る三匹のバンシィ。
それぞれ一メートルか二メートルずつ離れていた各員との距離が、少し手を伸ばせばゼロに縮められるほど狭まった瞬間を見計らい──俺は目を閉じて口付けるバンシィのこめかみに銃口を突き付け、四度発砲した。
「ぺっ。血が入った」
首無しとなったバンシィが倒れ始めると同時、二匹目の胸部に四連射。
その最中、ようやく正気と敵意を取り戻した残りが目尻に涙を滲ませて泣き始めようとするも、致命的に出遅れている。
俺が三匹目に照準を合わせる直前、視界の端を駆け抜ける濃い紫色の流星。
超音速の投げ槍が向こうに任せた二匹のバンシィを穿ち抜くまでの間に、俺も四匹目まで片付ける。
最後は、唯一家の中に居た七匹目。
音を聞き付けて飛び出す頃には、唐突な仲間の死で溢れた匂いにほぼ半泣きだったが、声を上げる寸前に眉間へと魔弾を放つ。
──初弾から四.九五秒。
ぴったり二十発、撃ち抜いてやった。
最初の七匹を屠った後、時間差でチラホラ駆け付けてきた他の個体も各個撃破し、都合十二匹。
ひとまずバンシィ駆除は終わったと判断し、再び二十階層を目指して歩き始めつつ、レアに無事成功した本作戦のキモを明かす。
「妖精ってのは根本的に美男美女に弱いんだよ。クリーチャーだろうと、そいつは変わらん」
気に入った女探索者を殺さず拐うレッドキャップの例もある。一部のクリーチャーが人間を性的な対象と見ることは純然たる事実として確認されている。
となれば俺ほどのパーフェクト美男子が誘いをかけたなら上手く行かないワケがない。
…………。
ところでレア。そのチベットスナギツネみたいな目は、一体どういう感情なんだ。
「シドウ君」
おうよ。
「貴方いつか刺されるわよ」
え、なんで?
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