第75話 功労者達の足跡






「俺が十一、お前が十。やはり天才にも序列はある。まあ俺を相手に頑張った方だと褒めてやろう。えらいえらい、おめでとう二等賞だ」

「人の釣果をピンハネしないでもらえるかしら。最後の一匹を倒したのは私よ」

「倒しきれていなかったじゃないか。トドメを刺したのは俺だし、そもそも隙を作ったのも俺だ。文字通り横槍を入れておいてピンハネ扱いとは、タチの悪い言いがかりはよせ」


 狭いエレベーターの中、至近距離で睨み合う。

 何度かヒヤリとさせられたものの、結果は俺の白星。いや当然の結果だがな。レアと俺とじゃ所詮モノが違うからなモノが。


「俺の勝ちだ。大事なことだから何度でも言うが、俺の勝ちだ」

「………………………………そう」


 背を向けてプルプル震え始めたレア。

 悔しいのう悔しいのう。敗北という土の味を噛み締めるがいいさ。


「……ふっ……ふふっ……くふっ……」


 なんか笑ってるようにも聞こえるが、気のせいだろう。

 たぶん悔しさのあまり、声を押し殺して泣いてるに違いない。コイツ負けるといつもこうだし。


 …………。

 さて、今日の戦果も手帳に記しておこう。

 これで九八戦五〇勝三五敗一三引き分け、と。


 とうとう大台に乗ったか。いやまあ、至極妥当な結果だが。

 一応ほら、記録は大事だからな。






 十六階層を出発してから、既に七時間。

 棄てずにおいた最低限の水と軽食を摂取し終え、姉貴と周防オッサンが二度目のサードスキル発現チャレンジの際、あと一歩のところで続行を断念した難所、十九階層へと降り立つ。


「しかし、なんだかんだは役に立つ。いくら俺達が天才でも、前情報無しでは流石にもう少し手こずったかも知れないしな」


 一級探索者の大半は、十六階層ないし十七階層までしか登らない。


 コインを一枚でも抱えれば、徒歩以外の選択肢を奪われるのがダンジョンの特質。

 奥に向かうほど帰路の負担は増し、二十階層のエレベーターをアンロックしようにも一度は必ず自身の足で往復しなければならない。

 そして探索者達は一部のズレた功名心を持つ者以外、コインの入手によって協会から得られる金銭や福利厚生が目的であるため、うまみが少ない上に危険ばかり大きい場所には行きたがらないし、そもそも行く理由も無い。しかも一級は数が少ないから二級三級のように安全地帯セーフゾーン近くの美味い狩場の取り合いにもなりにくく、余計に奥部へと向かう理由は薄れる。


 それでもこうやって十八階層、十九階層の地図が最低限埋まり、上下エレベーター同士の位置関係と幾つかのルートが開拓されているからこそ、俺達は強行軍という選択肢を安易に採ることが適った。

 こいつは間違い無く、先人の功績と言えよう。


「ま、腐っても我が姉こと雑賀アウラ。鈍臭だが稚児ではない。そして鈍臭いからこそ用意周到だ。このくらいはやってのける」


 あの常に手入れされた、実は本人も密かに気に入ってるピンク髪がボサボサになるまで、三年前当時の協会で随一の凄腕と称されていた周防オッサンと二人でダンジョンに籠り、二ヶ月かけて人類初の二十階層到達を果たし、五ヶ月かけて各階層のルートを開拓し、三ヶ月かけて三度サードスキル獲得に挑戦し、見事達成した。

 今や『切り裂きアウラ』に『二の矢要らずの周防』と言えば、探索者志望の若年層の間じゃ一種の神様扱いだ。あ、いや、姉貴は兎も角として周防オッサンの方は覇気が無さすぎて本人だと気付いて貰えないことも多いアレな感じだが。


 ……何やら、大業を成し遂げた英雄のような口振りになってしまったな。しかしそいつは姉貴と周防オッサンに対する過小評価が過ぎる。

 あの二人なら、これくらいこなせて当然なのだから。


 そして俺も──ついでにレアも──この程度の山場などで躓くようなタマではない。


 何故なら俺は天才かつ最強のナイスガイで、レアはこの俺の自称ライバルだからだ。


「さて、さっさと行くか。最短ルートとは行っても、たっぷり三時間はかかるんだ」

「そうね」





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