第74話 天才的ポジティブ






「そう言えばシドウ君、ついに無駄弾を撃つのやめたのね」

「無駄弾とか言うな」


 分厚い氷の下を、俺達に気付いていない、フォルムこそミズチに少し似てるが二回りは大きな青龍が泳ぎ去る姿を眺めていたら、ふとレアがチクチク言葉を放ち始めた。


「とうとう認めたの? 自分の射撃がへたくそだって」

「お黙りやがれ」


 んなもん初めてコボルド相手に魔弾を撃った時から頭の片隅で「あ、これ駄目だわ」って分かってたんだよ。思わず笑っちまうくらいに。

 たとえ十年かけても一切上達しないという直感アンド確信があった。俺は天才だから自己評価も完璧なんだ。


 てか、ここまで駄目だと一周回って逆に凄いのではなかろうか。


 どれだけその分野に関するセンスの無い奴でも、十年あれば人並みには至れる。

 なのに俺は、恐らく射撃の腕だけは未来永劫上達しない。成長率どころかステータス上限が完璧なゼロ。


 流石は俺。才能が無い、欠点がある、という方面に対してまでも天才だったとは。

 なんというパーフェクト。そう考えたらレアのチクチク言葉など、そよ風程度にも感じない。


「ふっ」

「……?」


 寧ろ可哀想にすら思えてきた。

 普段あまり表には出さないが、自分以外の人類の九分九厘を内心していることを除けば、欠点らしい欠点を持っていない中途半端な天才め。


 いや欠点だわ。なんなら欠陥だわ。

 猿扱いはいくらなんでもどうかと思うわ。下手すれば俺の射撃よりも欠点なのでは。


「くっ」

「……?」


 よく分からんが負けた気がする。人間的な欠点という分野で。

 しかし舐めるなよレア。欠落は突出で補うのが真の天才。俺が一番お前が二番なのだと分からせてやろう。

 そうすれば、その慎ましからぬチクチク言葉も棘先が丸くなる筈。


「あら──」


 丁度いいタイミングで、氷面の穴からミズチが顔を出した。

 すかさずレアが槍を構えて飛び出そうとするも、それよりも先に俺が縮地で間合いを詰め、開け放たれた上顎ごと頭を撃ち抜いてハジき、再び元の位置に縮地を使った。


「おやおや、随分と初動が鈍いな。まさか、もうバテたのか?」

「…………」


 切れ長な目を見開かせ、槍を握る手に青筋を立たせて俺を見上げるレア。

 ははははは、悪くない気分だ。


「む──」


 また別の穴からミズチ。

 間髪容れず仕留めようと向き直るも、縮地で距離を詰める間際、ぶん投げられた槍がミズチの目玉を貫き、そのまま紫色の炎で頭ごと灰になるまで焼き焦がした。


「あらあら、どうして撃たなかったの? 動物愛護の精神にでも目覚めたのかしら?」

「…………」


 レアの手元に槍が戻るまでの間で地図を取り出し、現在位置からエレベーターまでの距離を再確認。

 十九階層に到着するのは、概ね二時間後ってところか。


「久し振りに遊んでやる。エレベーターに着くまで直進する間、どっちが多くクリーチャーを倒せるか勝負と行こう」

「望むところよ。吠え面かかせてあげる」





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