第71話 四つ巴への横槍
十六階層以降に現れるDランククリーチャー全十種は、基本的にどいつもこいつも縄張り意識が強く、他種どころか同種であっても殺し合うのが日常茶飯事。
例えば以前十三階層で遭遇した半人半蠍の怪物ギルタブリルと、一見すると超巨大な蜘蛛だがよくよく注視すれば全く違う生物であると分かる『アトラク=ナクア』。
こいつらは生まれ落ちやすいポイントが被ってる上、互いの持つ毒が互いにとって致命的という、相互天敵とでも呼ぶべき関係性。
あとは小山のように大きく、けれども氷のような毛皮を持つため周囲の景色へと溶け込み発見が遅れやすい巨人『ウェンディゴ』に、同じくらいデカい図体に牛頭と多肢を有し、そこまで速くはないが空を飛ぶための翅まで持っている『牛鬼』。
Dランク屈指のパワーファイターであるコイツらが小競り合いを始めただけで、その近辺では落石ならぬ落氷や雪崩が起こる。実に傍迷惑な連中だ。
──で。
「何故それが四体纏めて喧嘩してやがるんだ」
しかも十七階層行きエレベーターの目と鼻の先。
エレベーターは表面こそ石製なれど、中身は白い芯材で作られているため壊れる心配は無いが、あれじゃ乗れやしない。
「チッ。このクソ寒い中、何が悲しくて戦闘なんぞ……」
「でも少し運動すれば暖かくなるかもしれないわよ」
そう言ってレアが、腰から下肢にかけての力流動で大きく跳んだ。
今回は流石に防寒着を着込んでいるため、下着は見えない。この際だから平時もズボンに穿き替えるべきだと思う。
「一刺確殺。一投鏖殺」
高さ百メートル以上の空中で逆手に構え、振りかぶられた槍。
今度は上半身に豪力を伝わせ、自らを一投のための砲台と成す。
「塵と化せぇッ!」
指先を離れた瞬間に亜音速へと達し、加速を続け、標的達の心臓まで届く頃には音速を超えた投擲。
まず狙ったのはギルタブリル。先週、俺が倒したとアイツに喧伝したから、その対抗意識だろう。
痩せこけた女の上半身、鎖骨あたりに穂先が触れ、周辺の骨肉を削り飛ばし、直径数メートルの穴を穿ち、紫色の火焔を撒き散らしながら突き抜ける。
今回の投げ槍は強く回転がかけられてるな。破壊力より貫通力重視か。
「追いなさい」
ギルタブリルを屠った後も半分ほど勢いを残した槍がレアの遠隔操作を受け、全くスピードを落とさず直角に曲がる。
次の標的はウェンディゴ。急所を守るべく胸の前で両腕を公差させるも、槍が石突きから炎を噴き出させて急激に加速し、ギルタブリル同様に心臓を喰らい取った。
「もうひと噛み」
三度狙いを定めたのは牛鬼。異形の巨躯を後退させ、上空へと逃れるべく翅を広げるも、飛び上がる前に首を貫かれた。
とは言え、そこまで。流石に三体のDランククリーチャーの堅固な外套と強靭な肉体相手では炎の付与を受けた状態でも一投につき三体で打ち止めだったらしく、槍を手元に戻し、尽きかけたオーラを新たに纏わせ、再び魔槍を活性化させる。
そして第二投を放たんとする間際──攻撃を中止した。
「オーバーなんだよ、お前は」
ウェンディゴに狙いをつけたあたりで四体全ての殲滅には不足と踏み、縮地でアトラク=ナクアの懐に潜っていた俺。
大蜘蛛のようで、全く異なる生物。注視すると気分が悪くなりそうだったため、手早く六つの急所に一発ずつ魔弾を見舞い終え、奇声と共に倒れた後、すぐ傍へと降りてきたレアにそう言った。
「よく私が、そいつだけ残すって分かったわね」
「そりゃそうだろ。あんな大雑把な、しかも貫通重視の破壊範囲を絞った攻撃で、急所が複数ある奴をどうやって仕留めるんだよ」
虫の類には身体の各所を独立して動かせる神経節、要はサブの脳とでも呼ぶべき器官が存在するため、頭を潰そうと即死しない場合も多い。ゴキブリなどに至っては、餓死するまで動き続けるケースもあるとか。
尤も蜘蛛は分類上虫ではないし、
「つか、はしゃぐのもいいが飛ばし過ぎるなよな。お前その技、連続で何回撃てる?」
「つーん」
そっぽを向かれた。教える気は無い模様。
ま、精々三回か四回ってとこだろうな。
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