第70話 ショートカット
十六階層以降を踏破する上で何が最も厄介かと言われれば、人間が活動するには圧倒的不向きな低気温も勿論だが、地形の高低差も足止めや進路変更を食らう十二分な要素。
直進さえ出来れば五分で済むものが、高さ何十メートルもの分厚い氷壁、それも内側が白い芯材という破壊不可能なバリケードに阻まれ、数時間近い遠回りとなることもザラ。
空を飛べるワイバーンにサンダーバード、人を乗せても氷壁を駆け上がれるケルベロスなど、ガーディアンの力さえ借りられれば攻略しようもあるが、それではサードスキルを得られないし、そもそもコインを一枚でも抱えていれば取れない手段。
ならば自力で登るとなっても、セカンドスキル発現者の内訳九割を占める豪力の基本的な筋力強化倍率は十倍に届くかどうか。曜日毎で気温が変動する氷点下二〇度から五〇度の凍土で可動域も確実に縮こまっているため、その半分の膂力も発揮出来れば上等。
加えて豪力は肉体への負荷も大きく、連続五分前後が発動限界の目安。これは探索者の平均値や中央値と比べて力量に圧倒的な開きを持つ姉貴やレアであっても同じ。
要は魔剣魔槍で斬ったり突いたりなどの瞬間的な膂力を発揮する分には良いが、数十キロもの距離を走ったりなどの長時間の行動には不適格なスキルってことだ。
まあ──それでも技量と使い方次第では、色々ゴリ押せてしまうのだが。
豪力のリソースを身体の一点に集中させることで出力とパフォーマンスを向上させる高等技術『
そいつを更に突き詰め、あらゆる所作に合わせて必要な瞬間に必要な箇所へと絶えずリソースを移動させ続ける超高等技術『
豪力発現者の二割程度が使えている前者の技を果たして高等と呼べるのかは兎も角、後者の技術を扱えるのは、恐らく今のところ
なお姉貴も使えてるつもりらしいが、以前鍛錬する姿を見た時は今ひとつカタかった。身体と豪力の連動がぎこちないと言うか、配分率やタイミングが微妙に、そして絶妙にズレてて気持ち悪かった。
何故ああなるのやら。豪力を発現させてない俺でも、適切なやり方なんて一目瞭然だったのに。だから鈍臭なんだよ。
閑話休題。
「ふっ」
紫色に燃え盛る魔槍を携え、ざっと八十メートルはあろう氷壁の頂へと、ただ一度の跳躍で辿り着いたレア。
一方の俺はそれよりも早く、既に縮地で同じ場所に立っていた。
登るならツラいなんてもんじゃない高さだが、単純な距離に置き換えれば小学生でも走破可能。縦向きか横向きかでえらい差だ。
そして縮地は縦横斜めの全方向に、整地で同じ距離を全力疾走するのと同程度の消耗で瞬間移動が可能なスキル。
つまり高低差には滅法強い。百メートルも無いおちびさんの氷壁など、階段を三段飛ばしに上るくらいの感覚でクリア出来る。
ともあれ。これでヘアピン状に捻じ曲がったルートを、真っ直ぐ越えられた。
「三時間分は縮まったな」
「そうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます