第67話 最後尾三時間待ち






「ケルベロスをD+に進化させて来たわ」

「あ?」

「ケルベロスをD+に進化させて来たわ」


 足もすっかり良くなった週末。

 協会に出発しようとしたら家の前で立ってたレアに、ふんす、と鼻息荒く二度言われた。


「進化って、そのケルベロスのために十五階層の到達報酬ごほうび使ったくせに、どうやってだよ。お前、友達なんか一人も居ねぇだろ」

「その辺の猿に少ししたら即日で同行してくれたわ」


 色仕掛けか。恐らくそいつには手すら握らせてないと思うが。

 そんなだから友達が居ないんだよ。そもそも作る気も無いんだろうけど。

 ちなみに俺は星の数ほど居る。まあ赤い壁のせいで星なんか見えないんだが。

 天才とは孤高なのだ。


 あと久々に聞いたな、その『猿』呼び。

 いくら大多数の人間が自分よりも圧倒的に能力面で劣るからって、そういうスタンスで周りと接するのは流石にどうかと思うぞ俺。


「……ボーパルバニーには……会えなかった、けど」

「当分、妙な階層に出没したりはしないだろうってラーズグリーズも言ってたからな。いやー、アレはなかなかの得難い経験だったなー」


 模造槍が収められた棍袋のショルダーストラップを握るレアの手に青筋が浮く。

 ははははは、悔しかろう悔しかろう。






「へぇ。D+ランクは一級以上の探索者のみが所有可能、か」

「加えて今後は、一級への昇級条件を満たしたら自動的に昇級……それと所有召喚符カードの定期検査に、虚偽申告への罰則強化……ふぅん」


 協会窓口に十六階層への突入申請を提出し、渡された番号札がアナウンスされるまでの待ち時間中、掲示板に張り出された通達を読む。


「ま、いいんじゃねぇの?」

「そうね」


 モノリスの排出率を考えたら、二級時点でDランクの召喚符カードを持ってる奴など殆ど居ない。つまりD+への進化は、他人の到達報酬ごほうびを使うのが前提になる。

 このルールが追加されたら、一級に上がって十四階層以下への立ち入りを制限されたくない二級探索者達にとって、十五階層の台座は無用の長物になる。そうなれば多少の謝礼を貰って一級探索者に使用権を明け渡すことへの抵抗も無くなるだろう。

 D+の頭数を稼ぐには悪くない第一手。恐らく考えたのはオヤジか姉貴あたりだな。






 D+ランクの件でか、今朝の窓口は混雑していたため、呼ばれるまでいつもより随分と待たされた。

 何故か置いてあった古い携帯ゲーム機で時間を潰し、三十分ほどで入るアナウンス。


「さーて行くか」

「ええ」


 十六階層以降用の寒冷装備に着替え、エレベータールームへ。

 なお今回エイハは同行しない。流石に一ツ星かのじょではまだサードスキル発現の条件を満たすのは厳しいし、知人に頼んで十五階層到達報酬の使用権を譲って貰えたそうなので、この週末で再び十一階層からの踏破を始めるそうだ。

 同行する知人の力量は知らんが、例え足手纏いであってもノーライフキングが居れば道中の危険など無いも同じだろう。


「すごい混雑ね」

「ああ。だが、ほぼ十階層行きの列だ」


 既に十五階層のエレベーターをアンロックしている二級探索者は殆ど全員が到達報酬も使用済みゆえ、自然とそうなる道理。


 さながら優待パスでテーマパークへと入ったかのように、長蛇の列を素通りする。


 ──その最中、知った顔を見かけ、足を止めた。


「あん? 周防すおうのオッサンじゃねぇか、アンタもD+目当てか?」

「…………さい、雑賀、の、弟か……!? ……す、済まんが、少し、少しだけ、俺の代わりに、並んで……うぐぅっ!?」


 真っ青な顔で腹押さえて、一体どうしたんだよ。





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