第57話 ギルタブリル






 尾で締め上げられたオーガの胴が、上と下で泣き別れとなる。

 踏み付けられたゴーレムの躯体が、ガラスの如くバラバラに砕け散る。


 俺が縮地の射程範囲内までギルタブリルに近付いたのは、奴が蹴散らしたガーディアンからその主人達へと視線を移すのとほぼ同時。

 青褪めた三人の探索者と、首が痛くなるような巨体の間めがけ、跳んだ。


「……高速移動の最中で突然Gが薄れたら、それはそれで気持ち悪いな……」


 頭部に直接跳んで撃ってトばしてハイおしまいでも良かったのだが、生憎とギルタブリル自身の腕が影となり、頭を直視出来なかった。

 薄紙一枚隔てるだけで、縮地は届かなくなってしまう。


「……状況は、あまり芳しくねぇか」


 肩越しに振り返り、同業者達の方を見る。


 いきなり現れた俺に目を白黒させつつも、延いては絶体絶命の危機に足をすくませつつも、倒れて意識を失った仲間を庇っている二人。


 倒れた奴は酷い有様だ。手足はあらぬ方へと曲がり、微かに聞こえる呼吸音も危うい。

 これはエイハが到着したら間違い無く使だろうと思いつつ、さっさと片付けるべく六連射を放った。


「当たらねぇ」


 流石はDランク。距離を置いての射撃では、この位置からでも熱を感じるほど高密度高出力な外套を貫けないか。絶対にそうだ。

 仕方なくいつも通りゼロ距離射撃へとシフトし、ギルタブリルの顔面目掛けて縮地で跳ぶ。


「クマが酷いぜ? 寝不足か──っとぉ!」


 バランスボール並みの目玉に銃口を押し付けようとした瞬間、大人三人でようやく囲めるかというほどに太い尾の一本、その先端に備わった鋭利な針が結構な速度で迫って来る。

 中々の反応速度。デカいだけじゃありませんよってか。


「そういきり立つなよ。お前だって奴等の一人とガーディアンを面白がって甚振ったんだろう? なら自分も同じことをされる覚悟は持っておかないと、ダサ過ぎるぜ?」


 空中で身を躱し、俺を突こうとした尾の上で脚を組んで腰掛ける。

 そのまま尾に銃口を向け、ハジいた。


〈アアァァァァッ!?〉

「ああ、喋れねぇタイプ? ペラペラ話せそうな見た目してんのにな」


 千切れた尾ごと落ちる前に肩の上へと縮地。捕まえようとしてきた掌をタイミング良くゼロ距離で撃って手首ごと吹き飛ばし、再び宙に躍り出る。


「遅せぇ遅せぇ、旅行シーズンの東名高速かってくらい遅せぇ。行ったことねーけど」


 残る四本の尾が四方八方より襲い来るも、着地の軸足を交互に切り替えつつの七連縮地で掻い潜り、頭の上に立つ。


「残念。Dランククリーチャーおまえの強さが八十なら、現時点での俺やレアの力量は、ざっと百二十だ」

〈アアァァァァアアアアァァッッ!!〉


 発狂じみた叫びと共に、束なって振り下ろされる四本の尾。

 俺は普通にギルタブリルの肩に飛び降りると、勢い余った尾針は四本全て、奴自身の頭に深々と突き刺さった。


「あーあー」


 モデルガンをホルスターに収め、縮地で地面に移動する。

 激しく痙攣、目玉をぐるりと上向かせたギルタブリルは横倒れとなり、生命力だけは強いのか一分近く経ってようやく動かなくなり、砂となって崩れ始めた。





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