第56話 違和感






〈我が秘術は敵対者の殲滅こそ本領であるため、このような加護の類は不得手ですが〉

「十分だ。寧ろ株を上げ過ぎだぜ、天才を迷わせるとは生意気な」


 四大元素を操るノーライフキングが作り出した追い風に文字通り背中を押され、平原を駆け抜ける俺とエイハ。

 十四階層では改めてコインを集めていたのだが、それも再び棄てさせた。


「──見えた」


 ノーライフキングのような例外もあるが、基本的にクリーチャーはランクの高い種族ほど体躯が大きい。実際、ケルベロスなどガルムだった時の三倍近くまで膨れ上がっていた。

 故に走り始めて数分、圧の震源地まで半分ほど近付いた頃合、目標物を視界へと捕捉した。


「あれは……!?」

〈『ギルタブリル』かと〉


 女性の上半身、五本の尾が並んだ蠍の下半身を持つDランククリーチャー。


 デカい。頭頂部までの高さが二十メートル以上ある。ビル七階か八階分てところだな。

 その割に酷い貧乳だが。アバラどころか胸骨まで浮いてる。痩せすぎだろ。


〈エイハ様の御同業方と戦っておりますな。いや、と言い換えるべきでしょうか〉

「だろうな」


 遠目でまだ細かくは見えないが、オーガらしきものが尾の一本で締め上げられ、ゴーレムと思しき岩の塊が踏み付けられている。


 Eランククリーチャーの平均的な強さを十、Eランクガーディアンを十二と考えた場合、Dランククリーチャーの力量は八十って塩梅だ。

 数字が二倍も離れていれば、大人と子供くらいの差があると思っていい。ハッキリ言って相手にもならん。


「シドウ、どうするの!?」

「無論、割って入る。露知らんところでなら兎も角、見付けた以上はな」


 あの状況なら俺が倒しても文句は言われまい。

 指を鳴らし、ノーライフキングの方を見る。


「この風で俺をあそこまで飛ばせるか?」

〈可能ではありますが、先程も申し上げた通りに我が秘術は殲滅こそ本領。安全性の保証は出来かねますぞ、王子殿〉

「上等。やってくれ」


 着地は縮地を使えばいい。使用直後に全力疾走と同程度の慣性がかかるってのは、裏を返せば例え音速で吹き飛んでても縮地を発動させれば時速四十数キロまで減衰するってことだ。要は使いようよ。


「エイハ。分かってるとは思うが、もし追い付いて来た時に怪我人が居ても、はするなよ」

「……約束は、出来ないかな」


 それならそれで結構。

 納得尽くなら、好きにしろ。


〈では行きますぞ。御覚悟召されよ!〉


 風が吹き荒び、内臓を握られるようなGがかかる。

 打ち上がったミサイルの気分で空中に放り出された俺は、瞬く間に近付くギルタブリルの姿を見据え──気持ちの悪い違和感に襲われた。


 ──俺がエレベーター前で感じたのは、本当にアレの気配だったのか、と。





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