第55話 十三日だが金曜ではない






 エレベーターから十三階層へと降り立ち、そう言えば今日は十三日だったな、などと当たり障りないことを思う。

 しかしこういう些細なところから会話の取っ掛かりを掴み、ウィットに富んだ爆笑トークショーまで持って行くのが天才の仕事である。俺は芸人としてもパーフェクトなのだ。


「エイハ。十三日の金曜日にちなんだジョークを思い付いた。三十分は笑いが止まらんだろうが、聞くか?」

「その前振り、大丈夫……? でも折角だから聞かせて欲しいかな」

「良い心掛けだ。腰砕けで歩けなくなったら担いで運んでやる、安心して笑うが──」


 ──異変、違和感が背骨を伝う。


 口舌を断ち、リボルバーを引き抜く。

 でないことは分かり切っていたが、条件反射的に身構えた。


「シドウ?」

「三秒黙れ。場所を探る」


 視線を四方に走らせるも、特に異常は見当たらない。

 息を殺して耳を澄ませるも、風で木や草が揺れる音しか聞こえない。


 けれども、居る。

 この階層のどこかに、明らかに。


「あっちだな。もう喋っていいぞ」


 二時方向およそ四キロメートル先。

 レアが十三階層を通った時点で既に居たのなら、アイツは絶対に気付いて接触を図った筈。


 となると、出現したのはどんなに早くとも十時間前あたりが上限か。

 いや。十四階層まで逃げてきた同業者らしき輩は見かけなかった。ついさっき現れたばかりと考えた方がしっくり来る。


「十三階層ってのが、また微妙だな。良かったのか悪かったのか」


 十階層とも十五階層とも隣接していないため、通常の二級探索者は勿論、十五階層まで到達しつつも敢えて昇級申請を上げていない、いわゆる準一級探索者達も狩場として使うことの少ない階層。

 ついでにワームの存在もあるため、ここでコイン稼ぎをしようと考える者は殆ど居ない。


「あの、シドウ? どうしたの?」

「なに。ちょっとしたアクシデントだ」


 何も無い平原の彼方を指差す。


「向こうから圧を感じる」

「……?」

「一ツ星では気付かずとも無理はない。しかし俺のような天才オブ天才の五ツ星は、五感以外の直感も特別製なんだ」


 ガーディアンを出すよう告げ、召喚させる。

 喚び出されたノーライフキングは、何を命ぜられるでもないままエイハの前に立ち、俺と同じ方向を注視した。


〈……これは異な。本来この階層とはゆかり無きものが混ざり込んでおりますな〉

「分かってるじゃねぇの」


 どうしよう。ホントに諦めようかなワイバーン。

 Dランクともなるとトレードじゃほぼ手に入れるの無理だから、十五階層の到達報酬が実質的なラストチャンスなんだよな。


「どういうこと、ノワール」

〈ふむ。ここからでは、まだ確定したことは申し上げられませぬが──〉


 一拍、間を置いたノーライフキングの言葉尻を引き継ぎ、俺が結論を述べる。


「──でもDランク相当のクリーチャーが、この階層に居やがるんだよ」


 どうなってんだ一体。

 どこもかしこも、イレギュラーだらけじゃねぇか。





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