第54話 人類の守護者達






 往路はマラソンで駆け抜けた十四階層だが、帰り道は悠々と歩く。

 寄って来たクリーチャーはノーライフキングが倒し、しかもバイコーンは倒さず追い払ってくれたため、実に快適だ。不要な時は自ら手を下さない、これもまた天才の役割。


 どうしよう。本格的に欲しくなってきたぞ、ノーライフキング。

 しかしワイバーンに乗って空を飛ぶ夢想も捨てきれん。いかんともしがたいな。


「そう言えば、全部で何種類居るんだったっけ。Dランクのガーディアンって」

「九種類だな。GからDまでは、ランクが上がる毎に二種類ずつ増えて行く」


 Gランク三種、Fランク五種、Eランク七種、Dランク九種の計二十四種。

 この中からGランクを除いた二十一種が、探索者達の所有する召喚符カードの全てとなる。


「Gは言わずと知れたゴブリン、スケルトン、スライムの三種。百万枚以上を代理政府が保有し、企業への貸し出しや各種労働作業に活用している、人口が激減した北海道セカイの生命線だ」


 特に有用なのが、教育次第で機械操作や電気工事、車両運転やプログラミングまでこなせる万能の便利屋ゴブリン。強面な割に心優しく、命令されずとも子供や老人の世話を買って出ることも多い。

 嘗て起きた六十秒の惨劇によってガーディアンに対する強い恐怖心を覚えた人々が、それでも召喚符カード使用の反対まで訴え出る動きが起きなかったのは、こいつらの存在が極めて大きい。


 残りの二種、スケルトンは比較的単純な作業しか行えないが、疲れ知らずで永遠に働き続けられるため、ゴブリンとは違う部分で需要を占める。スライムに至っては有機物無機物、有毒物質や汚染物質、果ては放射性物質まであらゆるものを体内に取り込んで消化、無害化してしまう最強の掃除屋。コイツが居なければ、赤い壁で閉ざされた北海道セカイは詰んでたかもしれん。


 で、そんな各方面で役立ちまくりのGランクからひとつ上がったFランク。ハードルの高さが計り知れない。


「Gランク三種それぞれの上位種であるホブゴブリン、レアスケルトン、アシッドスライム。その中にブラックドッグとピクシーを足した五種がFランクに該当する」


 虎に匹敵するサイズで人間を一人二人くらいなら乗せて運べる馬力を備え、主人への忠誠心も強いブラックドッグ。

 肩に乗るほど小さく、蝶に似た翅を背面に生やし、姿は十代の少女に近く、風を操るチカラを持ったピクシー。


「Eランクもまた、Fから進化した連中に新顔が二種加わる」


 ホブゴブリンの上位種オーガ。身体能力とタフネスに優れた安定感の強いパワーファイター。

 レアスケルトンの上位種リッチ。火と雷を操り、距離を置いて戦う後衛タイプの砲台。

 アシッドスライムの上位種ヒュージスライム。動きは鈍いが物理攻撃が殆ど通用せず、マンティコアやTレックス級の巨体を持つクリーチャーだろうと丸呑みし、数十秒で骨まで溶かし尽くす。

 ブラックドッグの上位種ガルム。赤くてデカい犬。以上。

 ピクシーの上位種シルフ。羽衣を纏った裸身の女性に似た姿を持ち、ピクシー以上に強力かつ繊細な風を操る。喋ることは出来ない。


「サラマンダーはアンキロサウルスに少し似てるな。甲羅のような鱗で背面の防御は鉄壁を誇り、喉の発炎器官から約三千度の炎を吐く。ゴーレムは人型の岩が動いてるみたいなやつで、単純なサイズと重さはEランクでもダントツ。倒れ込むだけで大概のものはペシャンコだ」


 いずれも一般的な家屋程度なら容易く叩き潰せるチカラを持った存在。

 故に限られた緊急時を除き、ダンジョン以外での召喚は原則として禁じられている。


「そんな奴等が更に進化した上位種、或いはその上位種に匹敵する能力を備える種族達こそがDランク」


 オーガから進化した『ヤシャ』。

 リッチから進化した『ノーライフキング』。

 ヒュージスライムから進化した『ショゴス』。

 ガルムから進化した『ケルベロス』。ぺっ。

 シルフから進化した『ティターニア』。

 サラマンダーから進化した『ワイバーン』。

 ゴーレムから進化した『タロス』。

 そして『サンダーバード』と──『ワルキューレ』。


「それぞれの詳細は協会が保有するリストに記載されてる。クリーチャーに関する資料も纏められてるから、暇な時に目を通しておくといい」

「そうだね。正直、今までそれどころじゃなかったから……」


 元々エイハは、探索者になることを母親にずっと反対されていたのだとか。

 しかし、旭川の被害者に対する補助金の給付期間が一年前に終了し、アルバイトだけでは入院費を賄いきれず、一定枚数コインを取得した探索者の特典である医療費免除に縋るしかなかったため、半年前に反対を押し切ったらしい。


 ……補助金に関しては、オヤジも姉貴もどうにか打ち切らずに済むよう方々で手を尽くしたが、代理政府が広げられる腕の長さにも限界がある。

 エイハが事なきを得られたのは、言ってはなんだが偶然の産物。少し前までの彼女と似た立場の者は、ちょっと探すだけでいくらでも出て来る。だからこそ拾いきれない。

 それこそが、今の北海道セカイの現実だ。


 …………。

 故にこそ俺は、エイハをと評価する。


 つい先日、小耳に入った噂。

 ある病院で一日に一人ずつ、死を待つばかりの重症患者達が目を覚ますと、立ち所に恢復しているという。


 ちょうど俺がダンジョンからエイハを助け出した、翌日からの出来事。


 もし実行する姿を見られれば、少なくとも今と同じ生活を送ることは出来なくなるだろうに。

 リスクを負ってでも稚児に手を差し伸べる。そんな気高さに天才の在り方を見込んでこそ、俺はエイハに一ツ星を贈呈したのだ。





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