第53話 Dランク
「……ごめんね王子様、変なもの見せちゃって」
「気にするな。それに前にも言った筈だ、お前の身体は美しい」
「身体は、とは言われてないけど……」
十四階層行きのエレベーター内で、顔を赤らめて俯くエイハを見遣る。
「まあ引け目を感じるのも無理はない。何せ俺がパーフェクト過ぎて、横に並べばハリウッドスターだろうと霞んでしまう」
なんでこんなにも完璧なんだろう、俺。
ああ。天才かつ最強のナイスガイだからか。納得。
帰り道も走る予定だったが、折角シャワーで汗を流したのにまた不快な思いをするのも憚られたため、普通に歩いて帰ることにした。
やはり人生で大切なのは余裕だ。レアの奴め、せかせか生きたって良いこと無いぞ。
「十五階層の無人販売所に冷感インナーが売っていたのは幸いだった。と言うか、普通に前もって着てくるべきだったな」
「そうだね……でも、なんで防寒グッズも一緒に置いてあったんだろう」
不思議そうに首を傾げるエイハ。
そんなの決まっている。ダンジョンの十六階層以降は寒冷環境にシフトするからだ。
出現するDランククリーチャー達の法外な強さも勿論だが、あまりにも環境が過酷ゆえ歩き回るだけでも激しく消耗し、だからこそ十六階層以降はマッピングも全く進んでいない。
姉貴ですら単純な踏破に二ヶ月かかった。サードスキル発現条件を満たすまでには、そこから更に八ヶ月を要した。
また、一級探索者は下の者達の稼ぎの場を奪わぬよう、十四階層以下での活動が制限される。二級の場合も九階層以下では同様だが、真夏並みの暑さ以外は至極快適な活動環境の十一階層から十四階層への出入りを制限される方が、遥かにデメリットとしては大きい。
実のところ探索者は、二級が一番安定して稼ぎやすい。
二級から一級に上がる者が二割程度しか居ない、もうひとつの理由だ。
「ほう」
ノーライフキングが掲げた杖に埋め込まれた宝玉が瞬き、撃ち放たれる光帯。
直径だけでも数十メートルに及ぶ破壊の矛先が、空高くを飛んでいたグリフォンを蒸発させた。
「うわぁ……凄い、凄いよノワール! リッチの時も凄かったけど、本当に桁違いだ!」
〈お褒めに預かり恐悦至極。この階層帯の木っ端風情にはエイハ様の鎧にすら触れさせませぬゆえ、どうぞ王子殿との逢瀬をお楽しみ下さいませ〉
「しかも喋れるようにまでなった!」
Dランクのクリーチャーやガーディアンともなると、オウム返しに過ぎなかったハルピュイアなどとは違い、人語を話す技能を備えた種族も現れ始める。
まあノーライフキングほど流暢に喋れるガーディアンは、他だとシルフから進化した『ティターニア』くらいだが。ゴブリン系列あたりも知能こそ人間並なのだけれども、喉の構造のせいでどうしてもカタコトになるし。
しかし、そうなると骨格の形状こそ人間に程近くとも、声帯どころか肉が全く無いノーライフキングはどうやって喋ってるんだ。
〈周囲の空気を震わせ、声を作っているのです王子殿〉
「ああ、成程」
火・水・風・土の四大元素を自在に操るチカラの持ち主。そういう応用も利くってか。
中々いいな。しかもレアのケルベロスみたいに無駄に馬鹿でかくないし。精々身長三メートルってところ。
ちょっと俺も欲しいな、ノーライフキング。
今のところの一番はサラマンダーから進化する『ワイバーン』だが、こっちも候補に入れとこう。
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