第51話 十五階層






 ──よし、到着。

 いい汗かいた。


「げほっ、げほっげほっ! ふっ……ふっ……し、死ぬかと思った……」


 道中でクリーチャーと遭遇する度に縮地で間合いを詰めてゼロ距離から撃ち殺し、或いは追従するリッチに対処させ、ノンストップで走り続けて三十分。

 目的のエレベーターの前で立ち止まると、途中で魔甲を維持出来なくなったエイハが膝をつき、咳込みと深呼吸を繰り返す。


「大丈夫か? お前ならギリやれる程度にペースを抑えはしたが」


 十一階層から十三階層での行動中、エイハの大まかな運動能力は測っておいた。

 尤もプラマイ三パーセント程度の誤差がある大雑把な計算ゆえ、その範囲内での最小値に合わせた調整だが。


「本当にギリギリだった……なんてスパルタ……でも、これも王子様にボクの能力が認められてる証──ごほっ、ごほっ!」


 エイハの息が整うまで待ち、エレベーターへと乗り込む。

 向かう先は、いよいよ十五階層だ。






「ひとまず折り返しか。十六階層からは更に長くなるかと思うと、流石に少しばかり面倒だな」


 五階層、十階層と大きくは変わらない構造の安全地帯。

 取り敢えず無人販売所でよく冷えたコーラを買い求め、一気に飲み干す。


「ふう。運動したら腹の虫も収まった。予定通りここで八時間休んでから出発するぞ」

「良かったぁ……」


 ホッと胸を撫で下ろすエイハ。

 まあ帰り道も走るんだけどな。距離が長くなる分、更にペースは緩めるが。






「これ、だよね」

「ああ」


 十五階層の到達報酬ごほうびを使う前にシャワーブースで汗を流し、服も着替えて身綺麗になったエイハが、十メートル四方の階層中央へと据えられた台座の前に立つ。


「……まさか、Eランクに進化させてから一日も経たないうちにDランクなんてね」


 手にしたリッチの召喚符カードを見下ろし、台座表面の手型に右掌を合わせた瞬間、輝きを帯びるスキルスロット。


 数秒の間を挟んだ後、台座はガリガリと石の擦れる音と共に側面の蓋を開け、顔が映り込むほど磨かれた石板が、トレーのように迫り出してくる。


 石板中心には、ぴったり召喚符カード一枚分の窪み。

 ここにEランクの召喚符カードを収めることで、一人につき一度のみDランクへと進化させられる。


「これでノワールが……」


 やや強張った表情で、エイハは窪みに召喚符カードを嵌め込む。


 瞬間、台座が小刻みに震え始め、併せて大量のエネルギーが召喚符カードに注がれる。

 今朝一階でレアスケルトンをリッチにさせた時とは段違いの熱量。目を潰さんばかりの極光に、俺達は手で顔を覆う。


 震えと光が失せたのは、たっぷり数十秒が過ぎた後。

 恐る恐る目を開いたエイハが石板から召喚符カードを取り上げると、台座は再びガリガリと音を立て、元の形に戻って行った。


「……Dランク、ガーディアン……って、どのくらい、強いんだっけ」

「ざっくりした区分は『超高層ビルを数分で平らにする程度』だな。少々の町や村なら、そいつ一体で簡単に全滅だ」

「程度ってなんだっけ……」


 浮かび上がる絵柄は、半壊した玉座に腰掛ける、祭服を纏った骸骨。

 手には自身の背丈よりも大きな杖を握った、スケルトンの最上位種。


「不死の王『ノーライフキング』。提案なんだがエイハ、そいつでいっぺんレアのケルベロスを叩きのめしてくれないか? 開けた場所では少し分が悪いかもしれんが、閉所でやり合えば十中八九勝てると思うぞ」

「八つ当たりは流石にどうかと思うよ……」





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