第45話 秘密兵器
そこらの鶏小屋よりも遥かに巨大な体躯、ヒクイドリを想起させる太く強靭な脚、まるで蛇のように長い首。
その鳴き声を近くで聞けば神経網の電気信号が掻き乱され、数秒間の
「鳴くのなら 喉を撃ち抜け コカトリス」
大きく首をのけぞらせる、咆哮の予備動作。
一瞬だが隙だらけな姿。標的の目印に誂え向きな嘴の付け根、真っ赤な肉髯を狙い撃つ。
「当たらねぇ」
隙があると見せかけての回避。トリ頭のくせに小利口な。そうに決まってる。
仕留めるチャンスを逃した。この距離で撃っても無駄、しかしもう近付いて撃つ時間は無い。
レアが妙に俺の足元を見てるから、縮地も使いたくない。
「チッ」
リボルバーを宙へと置くように手放す。
一枚だけ服の袖口に挟んでおいたコインを掌に滑り落とし、指弾の容量で弾く。
〈カェッ〉
「弾は弾でも指弾は当たるのね」
いざ鳴き声を上げようとコカトリスが嘴を開いた瞬間、眼球にヒット。
人間以外では動かすことすら出来ないコインもまた、外套に干渉可能な物質。あくまで干渉できるだけで貫けるほどの威力など無いが、アクション寸前に急所へと異物をぶつければ、容易く出足を潰せる。
「屠殺の時間だ」
未だ宙に在るモデルガンのグリップを再び掴み、疾駆。
鉄の塊を研いだような肉厚かつ鋭利な爪が備わった脚での前蹴りを見舞われるも、頑強ゆえに関節の構造が単純な禽獣との格闘戦など寝ぼけていても躱せる。
「この距離なら避けられねぇだろ」
逆にその脚を踏み台とし、首の付け根まで迫り、銃口を突き付け、撃ち放つ。
首無しチキンとなったコカトリスは、かのミラクル・マイクのように存命とは行かず、重低音と共に倒れ伏した。
「そう言えば、シドウ君のガーディアンはいつ見せて貰えるのかしら」
コインを魔甲に溶かしたエイハを背に乗せたら、重さを感じるワケでもないのに何故か一歩も動くことが出来ず、申し訳なさそうにクルクルと鳴くガルム。
一応試してみただけで分かり切っていたことだったため気にも留めず、だいぶ近付いた十三階層行きのエレベーターとの距離を目算していたところ、レアがガルムの顎を撫でながらとうとう尋ねてきた。
「……気になるのか?」
「そうね。まあ、この私に差をつけられないよう少しでも情報を隠しておきたいなら、ライバルの涙ぐましい努力に免じて足元のことも含めて聞かないでおいてあげるけど」
反応するな俺。いくらレアでも、まだ縮地の不完全性を見破れるワケがない。
ただでさえ超希少なスキル。どういう性質の代物か協会でさえ把握しきれてないから、当然資料も薄っぺら。
何らかの違和感は嗅ぎつけてるかもしれないが、ただのカマかけだ。クールを忘れるな。
「なんのこった」
平静を装いつつ、エイハが背負う片道分の飲食物含む各種物資が詰め込まれたコンパクトなバックパックを見遣る。
より正確には、俺の手元を離れて以降ピタリと震えが収まった
「……とっときの秘密兵器なんだ。披露目に相応しいシチュエーションってものがある」
「ふぅん」
髪と同じ紫色の瞳が、こちらを射抜く。
真っ直ぐ見返し、逸らされるまでの十数秒間、生きた心地がしなかった。
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