第44話 物見遊山
十二階層で出現するクリーチャーは、十一階層の四種に一種加わった計五種。
エンカウントの頻度も倍近く増し、手慣れた二級探索者達にとって、コインの山を担いで長距離歩かねばならない帰り道の苦労を度外視すれば、まあまあ悪くない狩場。
なので同業者のグループを遠目に何度も見かけたが、どうやら一般的な探索者ってのはガーディアンを前衛に出し、自分達はサブでチクチク戦うのがオーソドックスなスタイルらしい。
「あら、マンティコアを倒してきたの? あれ不細工だから嫌いなの、いい子ねガルム」
〈クゥゥン〉
同ランクのクリーチャーとガーディアンを比較した場合、クリーチャー側の強さを平均で十と定めたなら、ガーディアン側は概ね十二ほどになる。
決定的と呼べる差ではないが、地形環境の有利不利、連戦による消耗などの不確定要素を除けば、基本的にガーディアンの方が少しだけれども明らかに強い。
そしてここまでの道中で観測した四十一人の二級探索者の力量は、だいたい四から五といった塩梅。
セカンドスキルを発現させてクリーチャーとの差が縮まっている筈なのに、この有様。恐らく三級探索者とFランクとの力関係も似たようなものだろう。
となれば、二級との明確な違いは十五階層の到達報酬で進化させたガーディアンのランクだけである一級探索者は、もっと偏りが酷いのではなかろうか。
オヤジや姉貴に目ぼしい人材が居ないと言われるのも道理だ。そんな体たらくでは、サードスキルを発現させるための条件など一生かかっても満たせやしない。
「……ま、仕方ないか」
懸命に努力した結果なら、それ以上を求めるのは酷ってもんだ。
背が低い奴の手は、戸棚の上にはどうしたって届かん。下駄を履かせてやるか背の高い奴が代わってやるかの二択で、しかしガーディアンという下駄だけでは高さが足りないと来れば、俺やレアが手を伸ばすべきなのだ。
稚児には稚児の、天才には天才の、強者には強者の、最強には最強の、それぞれ演じるべき役回りが、立つべき舞台がある。
〈キュウゥアアァァァァッッ!!〉
などと考えていたら、上から甲高い鳴き声と突風。
躱そうとも思ったけれど、俺の前にエイハが立ち塞がって盾となったため必要無くなり、代わりのアクションとして視線を上げる。
〈ピイィィィィッ〉
「『ハルピュイア』か」
人間の女性に近い身体、羽毛で覆われた体表、腕の代わりに翼長六メートルにも達する翼を生やした怪物。
愛らしい顔と透き通った歌声で獲物を油断させ、鎌鼬を孕んだ突風を巻き起こすことで樹齢千年級の大樹だろうと数トンの岩石だろうと容易く真っ二つにする。
体高は二メートル半程度とEランククリーチャーの中では極端に小柄だが、ガタイを活かして地上戦を行うこともあるグリフォンと違い、自らが起こした風を使って滑空し続けるため常に空中へと陣取っており、攻撃方法も遠距離技のみという面倒な手合い。
人肉、特に若い男の肉が好物で、見かけるとすぐ襲ってくる。
「鳥畜生が一丁前にグルメ気取りか。確かに俺は食肉としてもパーフェクトであることは疑う余地すら無いが、食事の前にいただきますも言えないようでは髪の毛一本くれてやる気にもならん」
〈イタダキマスッ! イタダキマスッ!〉
「言えたわね」
骨格や肉体構造が人間に近いからか、それなりに知能が高いことも相まってオウムのように言葉を真似出来る模様。
「……どのみち、素直に食わせて貰えるなどと思わないことだな。食っていいのは食われる覚悟がある奴だけだ」
「え、シドウ君
誰が食うか。物の例えだっつーの。
クリーチャー、しかも形態が人間に近い種族を食おうだなんて頭のおかしい奴が居るなら、是非ともこの目で拝んでみたいわ。親の顔とセットでな。
「鳥撃ちはガンマンの腕の見せ所」
リボルバーを引き抜き、八連ファニングショット。
鉛色の光条がハルピュイア──の周りを、綺麗な円を描いて突き抜け、空の青へと溶けて行く。
「当たらねぇ。運の良い奴だ」
「シドウ君と戦うクリーチャーは揃いも揃って類稀な幸運に恵まれてるのね」
やかましいぞレア。
「チッ」
嫌だけど縮地発動。レアに注視されないことを祈る。
ハルピュイアの若干手前の空中に跳び、瞬間移動後の慣性で最後の間合いを詰め、胸元に銃口を突き出し、発砲。
絶えず空を飛び続けるため、Eランクという枠組の中では群を抜いて軽く脆いハルピュイアの肉体。
魔弾の直撃で全身が千切れ飛び、その肉片は地表まで落ちて行くより先に砂と化し、コインだけを残して消え去る。
俺は再度縮地を発動させ、さっきと同じ立ち位置に戻る。
空中に照準を合わせれば脚を痛めず、しかも慣性で更に前進するから、単純に移動したい時は良いかも知れない。
あと、二度目の実戦使用で少し慣れた。
コンマ四秒だった隙が、コンマ三秒に縮まったぞ。ちょっとだけ前進だ。
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