第43話 天才の心得






 遮蔽物に乏しい平地は、本人の力量なりガーディアンの強さなりでクリーチャーを跳ね除ける能力さえ伴ってれば、次のエレベーターまでほぼ直進で向かえるのが大きな利点。

 往路の際は柱のように天高く伸びている上行きエレベーターが目標物であるため、遠方からでも探しやすいし。


「それぞれ直線距離だと十一階層は十二キロ、十二階層は十五キロ、十三階層は十キロ、十四階層は十三キロ、片道合計五十キロメートル。丸一日あれば、十五階層到達は楽勝過ぎるスケジュールだな」

「そうね」

「そうかな……」


 現在、十二階層。

 見晴らしの良い岩の上で休憩しつつ地図を広げ、改めてルート確認中。


 なお縮地が使える俺一人でなら、やろうと思えば半日での往復もやれないことはない。

 しかしやらない。流石に消耗がしんどいし、足腰にも不要な負担を強いるし、何よりそこまで遮二無二急ぐ理由が全く無いからだ。


 ゆとりは大事である。余裕の無い人間には何も成し遂げられん。

 腹を空かせたクリーチャーに囲まれていようとティーセットを広げられるくらいの胆力あってこその天才よ。


 大荷物になるから、流石にティーセット一式は持ち込めないが。

 あと、どちらかと言えば炭酸飲料の方が好きだし。


「渇いた喉にシュガーレスのコーラが染み渡る。この暑さもまたエッセンス」

「ひと口ちょうだい」


 飲みかけのコーラをレアにぶん取られた。しかもひと口と言いつつ、ペットボトル半分くらい持って行かれた。

 こんな無法が罷り通っていいのか。弁護士を呼んでくれ。


 ──ところで。


「おい、エイハ。見張りはガルムとリッチに任せておけばいい。お前も腰を下ろせ」

「あ……うん。そうするよ」


 初めての、それも二級に上がって早々の十一階層以降とあってか、落ち着かぬ様子で立哨していたエイハを嗜める。

 俺の隣へと腰掛けた彼女に飲み物を渡し、軽く指を鳴らした。


「休む時にはキッチリ休め。いくらコインの重量を軽減する技術を持っていようと、負担がゼロにはならない。人間は立ってるだけでも疲れる生き物であり、俺達の中じゃ荷物持ちポーターのお前が一番コンスタントに体力を使うんだ」


 能力の低い輩ほど物事の切り替えが粗末。

 肝心な中身など見向きもせず、ただ長時間働くことが偉いと思ってるような齢だけ重ねた連中は、世の中にごまんと居る。


「エイハ。俺は稚児には多くを求めない。当然だろう、稚児に出来ることなどたかが知れている。自分の足で歩ければ十二分に上出来だ。なんなら息してるだけで偉いまである」


 やれることをやらないのは単なる怠慢だし、やるべきことをやれないのはいっそ哀れみすら覚えるが、出来もしないことをやらせようとするのは指示を出す側の無能。

 ナンセンス。時間とリソースの無駄以外のなんでもない。余裕を持って行動することと無意味な浪費活動は違う。


「しかしこの俺が星を認めた以上、相応の働きは出来るものとして扱うぞ。優しくするのと甘やかすのは全くの別物だ」

「……うん。任せて。ちゃんと役に立ってみせるから」


 結構。


 それでは早速だが、カタカタ震えて鬱陶しい俺の召喚符カードを預かるという大役を担って貰おうか。

 どうにも紛失防止でパスケースに入れたのが気に食わんらしい。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る