第39話 ゼロの胎動
撃った弾が当たらない場合、最も手早い解決手段は近付いて撃つことだ。
五メートルでダメなら三メートル。それでもダメなら一メートル。最後はゼロ距離。
射撃大会に参加しようってワケじゃないんだし、要は倒せりゃいい。
…………。
「降りてこねぇな」
一キロメートル先に居る野ウサギも捕捉する猛禽類の驚異的な視力で巧みに俺の魔弾を躱した後、グリフォンはビル二十階ほどの高さを保ったまま此方を見下ろしている。
「チッ。デカい図体でイモ引いてんなよ、良い的だぜ」
怒涛の六連射。
肉片となるがいい。
「もう離れて撃つのやめたら? どうせ当たらないんだから」
横合いからレアが心無いチクチク言葉を放ってくる。
小学校で道徳の授業を受け直して来い。
「シドウ。ボクのノワールに撃ち落とさせるよ」
「それとも私が仕留めましょうかぁ? あんなスズメちゃん、かーんたんに串焼きよ?」
態度の温度差。俺が天才でなかったら脳がバグってるところだ。
「……二人とも手を出すな。
「ふふふっ。そう来なくっちゃ」
「でも王子様、どうする気?」
この状況。レアなら豪力によって強化された脚力で、あの程度の高さは容易く届くだろう。
エイハなら火球や雷球を飛ばせる
では、俺はどう攻略するか。
弾は当たらない。絵柄から見て飛行能力を持っている筈の
「……チッ」
やむを得ん。本当はもう少し勿体つけるつもりだったが、このままじゃ千日手だ。
俺はひとまず構えを解き、だらりと脱力する。
次いで、グリフォンの姿を視界に捉え──
──ノーアクションで、背中の上に跳んだ。
「よぉ。やっとお近付きになれたな」
〈ピュイイィィッッ!?〉
サイズは強さの指標とでも言わんばかり、Eランク以上のクリーチャーは大半が馬鹿でかい。
大型トラックの荷台に乗ってるようなスケール感。高さもあいまって悪くない景色だ。
「禽獣風情が、この天才をおちょくりやがって」
俺を振り落とすべく暴れるグリフォン。
しかし残念。俺は棒立ちでサーフィンが出来るほど平衡感覚に優れているし体幹も電柱並みに強い。振り払いたければ積乱雲の中にでも飛び込むといいさ。
「斬岩剣(銃)」
首の付け根に銃口を押し当て、発砲。
セカンドスキルの発現により性能が底上げされた魔弾は、グリフォンの頭のみに留まらず胸部に至るまでを吹き飛ばし、一撃で絶命させた。
「っと」
墜落し始めた亡骸の上から、再びレア達の傍へと跳ぶ。
着地音どころか出発点と到達点を結ぶ動線すら無く、まさしく瞬間移動した俺を、各々異なる感情の籠った眼差しで見つめる二人。
エイハは、唖然。
レアは、当然。
「光栄に思えよ? 今のが本邦初公開」
失墜した首無しの怪鳥が、どさりと地面を揺らす勢いで叩き付けられる。
「俺が発現させたセカンドスキル──『縮地』だ」
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