第38話 十一階層






 無事に召喚符カードをEランクへと進化させ、晴れて危険区域活動許可証も二級となったエイハ。

 これで三人揃って十一階層以降へと進出する資格を得たため、意気揚々と十階層行きのエレベーターに乗り込む。


「流石に三人、しかも全員大柄だと少しだけ手狭だな。一番デカい俺が言うのもなんだが」


 一九〇センチあってごめん。スタイル完璧な肉体美を誇っててごめん。

 天才かつ最強なナイスガイって、時に罪だわ。


「長身、と言って貰えるかしら。このゴツゴツしさとは対極に位置するパーフェクトプロポーションの天才儚げ美少女を捕まえて、大柄なんて美しくない表現はやめて欲しいわ」

「ボクは狭いの好きだよ。ワンルームのアパートで新婚生活とか憧れてたし」


 どうでもいいがこの石造りのエレベーターには換気口が無く、概ねの搭乗限界である四人が乗った場合、十分ほどで酸欠を起こし始める模様。

 行き先が二階層だろうと十階層だろうと十五階層だろうと移動時間は一切変わらないため、普通に使う分には何の問題も無いが、クリーチャーから逃げる際の籠城先には全く不向きだ。そも扉の開閉にも十秒ずつくらいかかるし。


 なんと言うか、グリッチじみた裏技とか、そういうのが徹底的に潰されてる感あるんだよな。






 数分かけて十階層に到着し、折角だからと無人販売所で冷たい飲み物を買い、一服する。


 一階と安全地帯以外では電子機器が使えない仕様さえ無ければ、各階層のあちこちにこうした設備を配置する案も出ていたらしい。

 が、クリーチャーに破壊される危険性や、一体誰が発電機の燃料補給や商品の補充などを行うのかって話になり、計画倒れで終わったとか。

 そりゃそうだ。






 ゴリゴリと鳴り響く耳障りな音。

 狭いから、と不必要に俺へと密着するエイハに武士の情けで気付かないフリをし、やがて停止するエレベーター。


「はぁっ、息が詰まるわ。早く出ましょう」


 開閉スイッチを押したレアが扉を無理やりこじ開け、すり抜けるように脱出。

 続けて俺とエイハも外に出ると──思わず、立ち止まった。


「ほう」

「すごい……話には聞いていたけど……」


 まさしく迷宮であった、石で閉ざされていた十階層までとは、何もかも異なる場所だった。


 アフリカのサバンナを思わせる広大な草原。

 頰を撫で吹き抜ける風。ささめく草花の音。


 それよりも何よりも俺達の意識を惹きつけたのは──空。


 八年前、赤い壁によって奪われたもの。

 青く広がる空、流れる白い雲、熱く照りつける太陽。


 そして。上空から俺たちめがけて急降下する、有翼のクリーチャー。


「……雰囲気が台無しだ」


 鷲の頭と上半身とライオンの下半身を持つ、生物よりも建造物に近いサイズ感の怪物。

 七種存在するEランククリーチャーの一角『グリフォン』。文字通り猛禽類並みの視力で獲物を見付けたってワケか。


「銃を相手に遮蔽物の無い空から近付くとは、舐められたものだ」


 ホルスターからリボルバーを抜き、真っ直ぐ腕を伸ばして構える。

 実銃と同じ重さのハンマーを起こし、発砲。

 俺のイメージを拾って再現された銃声とマズルフラッシュと共に、鉛色の魔弾が飛行機雲の如く、青空に光条を描く。


 身の程知らずにも俺達を狙ったがため、逆に獲物の立場となったグリフォンは──「うわ、何今の音。びっくりしたわー」みたいな顔で、キョロキョロと周囲を回していた。


「……当たらねぇ。そうか、温度湿度や気圧による弾道変化を計算し忘れていたな」

「魔弾の軌道はそういうのに左右されたりしないわよ。いい加減に射撃が下手って認めたら?」


 下手じゃない。





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