第37話 進化
「改めて挨拶を。本日からお世話になる樟葉エイハです。ファーストスキルは魔甲、主なポジションは
柔らかく微笑み、優雅に一礼するエイハ。
俺のことを王子様と呼んだあたりで、物陰から様子を窺ってた先程の女達がキャーキャー叫び始めたが、パーフェクトなナイスガイの俺と煌びやかな宝塚系女子が揃い踏みとあっては無理もない。存分に目の保養とするがいい。眩しさで失明しない程度にな。
「よし。じゃあチームメンバーが出揃ったところで早速ダンジョンに……と行きたいところだが、先に
食料品などの必要物資は既にエイハに買い求めさせてある。十五階層に到着すれば無人販売所で追加購入できるため片道分だから、大した量ではないが。
故に、あとは──エイハのガーディアンをEランクに進化させれば、準備完了だ。
ガーディアンはDランクへと至るまで、ひとつ下のランクから進化させることが可能。
そして進化の方法は、ランクによってそれぞれ異なる。
GランクをFランクにする場合は、ガーディアン単体でクリーチャー百体の討伐。基本的にコボルドを相手に行う。
FランクをEランクにする場合は、コイン千枚を一階のモノリスに奉納。故に協会はコインの買取だけでなく預かりも請け負っている。チャンバー投入用のリソースを鑑み、探索者側が協会からコインを買うことは基本的に出来ないが。
EランクをDランクにする場合は、十五階層の
「樟葉様。こちらが、お預かりしていたコイン千枚です」
「ありがとうございます。重かったでしょう」
職員が台車でモノリスの広間まで運んで来た、十個の小袋。
個々の大きさは掌に乗る程度だが、ひとつ十キロ。総重量にして百キロ。下手に丸ごと持ち上げようものなら腰が逝く。
「……この間は、本当に申し訳ありませんでした」
「いえ。こちらこそ、お力になれなくて」
職員の顔に見覚えがあると思ったら、エイハが俺に面会させてくれと頼み込んでいた窓口さんだった模様。
深々と頭を下げた後、エイハは小袋に詰まったコインを一袋分ずつ、モノリスに向かってバラ撒いた。
「私、ガルムを引き当てて良かったわ。コイン千枚なんていちいち集めてられないもの」
「だな。背骨が歪んじまう」
今週の換金レートは一枚あたり八百八十円。
それが千枚。都合八十八万円分のコインが、表面を波打たせる黒い柱に呑まれて行く。
ただし、Eランククリーチャーは金で売却するなら最低百万円からが相場なため、損かと言えばそうでもない。
寧ろ確実に金額以上の働きをしてくれる。レアのガルムあたりを見れば、あれがコイン千枚で手に入るなら格安だとは小学生でも分かるだろう。
「コツコツとコインを売るより、貯めてFランク
「それを何度もされるとチャンバーに回せる量が減るから、Fランク
「ですがEランクのガーディアンを増やせば将来的なコイン取得数も大きく上がりますので、そのあたりの問題に関しては協会内でも意見が分かれているところなんです」
ぽつりと俺が溢した呟きに、レアと職員さんから各々補足が入る。あちらを立てればこちらが立たず。
そうこう雑談するうち、エイハが全てのコインをモノリスに投じ終えた。
水に絵の具を垂らしたように、真っ黒なモノリス表面へと様々な色の渦が浮かぶ。
あとはこれに
「……ノワール。いつもボクを手伝ってくれてありがとう」
予め保管庫から引き出されたエイハの
裏面にはFランクを示す太字の直線。表の絵柄は、二本の剣を握った黒い
鉄に匹敵する硬度と強度を備えた、疲れも恐怖も知らない不撓の戦士、レアスケルトン。
「そう言えば私、ガルムに名前付けてないわ」
「明らかに槍より優先すべき相手だろ」
「だって貴方に見せびらかした時を含めても二回しか召喚してないし……Fランク程度なら余裕で倒せるから、使い所が無かったんだもの」
成程。一理ある。
──ゆっくりと、エイハがモノリスに
モノリスで渦巻く極彩色が
十秒ほどの末、掻き消える輝き。
エイハの手中に残った
擦り切れたローブを堅牢な護りである外套によってはためかせ、大きく広げた両掌にそれぞれ火球と雷球を纏わせた立ち姿。
火炎と紫電を自在に操る不死の魔術師、Eランククリーチャー『リッチ』。
「これからもまた、ボクを手伝っておくれ。可愛いノワール」
生まれ変わった
直後、後方で悲鳴が聞こえたと思ったら、恍惚の表情で揃って卒倒する例の三人組。
まだ着いて来てたのか、あいつら。
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